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連環ランチタイム
黒子は別に食事を忘れたわけではなかった。
「……」
朝からバスケ部は練習で、ふいに火神が姿を見せ、それで予定は大幅に狂ってしまった。練習メニューを変更し、ランニングに行かされた後は早めの昼食の休憩となり、そこへ青峰と桃井がDVDを受け取りに現れた。さらに緑間や高尾までやって来たという、カントク不在でわざわざ来た彼らを突っ返すわけにはいかない、何しろ『DVDが用意できましたので』とメールを送ったのは黒子本人だ、事情は説明せねばなるまい、そうこうして食事する機会を失ってしまったというだけで、火神と青峰が一対一をやり始めてしまい、覗きに来た後輩までもそわそわし始めてしまったから少しくらいは良いだろうなんて思ってしまったわけである。
確かに空腹も覚えていた。
「実はお前の好物ととてもよく合いそうなサンドイッチなんだ」
赤司は黒子に見えるようにして紙袋をゆっくりと持ち上げてくれる。どのように収められているのかは分からないけれど突き出たストローはありがちなラインが入っていたとしても黒子が見紛うはずがない、あの色味、穴の直径のサイズ、加えて意味ありげに続けられた『大丈夫だろうか』という一言は、彼が中身の溶け具合を案じていると受け取れる。
「あ。いただきます」シェイクをもちろん。
続けて栄養がどうとか、反則だとかぼそぼそと聞こえたけれど、黒子は聞き流している、やっぱり午後の練習のためにも食事はしておくべきだし、バニラシェイクは生もので放置するなど愚かな真似はせず、すぐに飲むべきだからだ。
「では、すみません。ボク食べてきますから」
冷たくて甘い物が喉を通過する記憶が内臓を刺激する。
「おー。勝手にやってるわ」
火神はひらひらと手を振り、青峰は毒気が抜けたような顔になっていた。それなりにヒートアップしかけていた二人は赤司のお陰で少しは落ち着いたらしい。
「助かります」
「なんの」
横に並ぶと赤司は空とぼけたように応える。
「……」
並んで歩き、前を向く赤司を見、それから手にぶら下げている紙袋を見る。横長に置かれた箱の上に確かに知っている上蓋とストローが乗っている。漆塗りの箱だとか、飴色の籐籠に恭しく盛られ、一目で遠慮してしまいそうな高級品じみた様子はないのだが、歩きながらも上だけにしようとか考えもした。バニラシェイクに釣られてしまったけれど少なくともサンドイッチは購買部で購入可能といった代物ではなさそうだ。
「あの」
赤司と穏やかでいてやさしい関係性は居心地が良く、気に入っている。でも、彼とはバスケ選手として敵でもあるし、対等でありたいと一方的だけど黒子は思っているから、貸し借りの重さとか抱えたくない。尤も彼はそんなことは考えもしないのだろうけど、高額なランチをありきたりなものとするには抵抗がある。
黒子が口を出す前に遮られる。
「ああ、あの日の当たっている辺りが良いかな」
そこにベンチはないが、コンクリの階段があり、筋トレくらいなら出来るスペースである。たまに荷物置きにされたりもしている、体育館の周りの殺風景さなどどこもそう変わりはない。
「地べたですけど」
「何か問題があるのか?」
赤司が育ちが良くて、品があるのは知っていたけれどいつだってどこか潔癖なような気がしていた。こちらからだとか、他の誰かが提案すれば拒んだりはしないけれど、彼からここでなんて言われると面を食らってしまう。
「…いえ」
「ビーフカツのサンドイッチにコールスローサラダ。小さいけれどスープもある、コンソメかな。練習にも重くないはずだよ」
紙袋を間にして座れば赤司は当たり前のように紙の箱を渡してくる。まだ作ったぬくもりが残っていて、しっとりとあたたかかった。知らない店名が印刷されており、いかにもテイクアウト用といったものである。
「赤司君、その、ボクは平気なんです」
恥ずかしいような気がするけど敢えて言ってみた。
「知ってる」
前と同じような事を言い合っている。相手はなんというか、信用して良いのか判断しかねる態度である。つまりは用心でもしているくらいに読めない。
「先日した話は本心なんです」
「うん」
赤司は横で紙箱の蓋を持ち上げると、オレは考えたのだけど、と言って黒子を見た。
「かつて、自分を支配していた人格を失ったのか、あるいは、己の中のどこに落ち着かせたのかも分からないし、上手く説明も出来そうもない。煙みたいに消えたイメージしかないんだ」
「……」
黒子はあっと思い、ただ頷いてみせる。
彼は彼の中にあった問題について黒子にきちんと話しに来たのか。勘違いは失態というか、やっちまった感があってしまうけど、それはそれで嬉しい。
「情けないな、黒子はきちんと話してくれたのに」
「そんな」
「棚の中に仕舞い込んでいたつもりだったのが、実は揮発していたようなものかな」
だからこれは真摯に受け止めようとしてくれた黒子への詫びでもある、と嘯くように言って、サンドイッチを食べる。さくりといい音がした。それが妙に寂しいように聞こえて黒子も箱を開ける。中には隙間なくサンドイッチが詰まっている。
「赤司君は赤司君の中に溶けたんですね」
赤司は薄く笑ってみせただけだ、自分の欠片を手放してしまったかのようで、小さな彼が失望感にぼんやり沈んでいるみたいだった。こんな頼りない横顔を黒子は初めて見る。
「オレのせいで勝手に生まれて、消されて良い迷惑だろうな」
「それも実りある時間ですよ」
「そうだろうか」
あくまでも冷静というか、ネガティブな赤司は蹴飛ばしてやりたくなる一方で、肩を叩いてやりたくもなり、そして、別人格にさえ同情する繊細さが子供みたいでくすぐったくもあった。あまり区別したくはないのだが赤司は前よりも親しみやすくなった。
「いただきます」
サンドイッチはトーストしたパンにビーフカツを挟んでおり、食べやすいようにカットしてあった。ほのかに芳ばしい匂いに誘われるが肉だな、多いなとも思う、が、くどいどころか軽く口に入ってしまう。
「これは…」
「口に合うようでよかった」
黒子は気に入るとぱあっと顔が明るくなってくれる、と赤司は笑った。
「いえ。美味しいんです、本当にいいレストランくらいに」
手を振ってからバニラシェイクを啜る。一気に幸福感が広がった。赤司の読み通りに、バニラシェイクと良く合う。いやもう、バニラシェイクなら大抵のものに合うのだけれど。
「―――あ」
サラダやスープとを黙々と口に運んでいるうち、唐突に頭に浮かんだ。それは小さな気泡が弾けたほどでしかないが、あながち的外れでもないように思えた。
「もしボクがもう一人だったとしたら、いまきっとホッとしてます」
「え?」
「譬えが食べ物になってしまって悪いのですが、消費されて安心したと言うか、楽になるというか」
「消費…」
赤司はきょとんとこちらを見ている。
身勝手だろうが何だろうが生まれたなら目的や理由はあるわけで、果たされたのなら本望、物という視点から考えれば悪くないと我ながら思うから口にしたのだが突飛すぎだったか。あるいは譬えが宜しくなかったか、赤司相手に発想の貧困さは否めない。
「……」
「えと…」
言葉を探す。
「もちろん、ボクが空腹から脱したからとかではなくて」
相手は黙っている。気まずいようで焦ってしまう。
「分離したものが確かな居場所に戻ったような…。バニラシェイクやサンドイッチの気持ちというわけでもないです、そんなのは分かりません」
赤司はやがて吹き出し、空を仰いで笑う。
「そうだな」
目尻に浮いた涙を拭う。それほどのことかと黒子は思わずむっとする。
「いま、張り飛ばされて目が覚めたよ」
「なんですかそれ」
だけど赤司があまりにも清々しく、晴れやかなものだから許してしまう。何より穏やかで自信に満ちた声は彼らしいものだ。
「掬い取ってくれる相手がいることすら忘れてしまうほど愚かにはならない」
顎に付いたパン屑を舐り取られ、もはやぐうの音も出ない。
「今度こそ大事にするよ」
「……」
向けられる視線は少しだけ熱っぽくて、ついでに甘い。
171126 なおと
『連環エンドロール』という小品のとある時間を抜き出しました。
そんでやっとLast Gameの円盤を見た。
改めてかがみんは行って何かしらマメに帰りそう…と思いました。
くしゃくしゃになって倒れそうになっても挫けはしないだろうけど
ガソリン仕込みに来る、みたいな。
「こいつに一番眩しい光見せてぇなー」って純粋に思ってそうでかわいい。
対してキセキはそゆ献身的なことはまるで考えてなさそうです。赤司さんは特に。
そういう人達で良いんですけどね。
拍手、ありがとうございました!
−−2017/11/27 掲載