黒バス_41

 
 
 
 
*赤黒ではないです。
*黒ちんと紫原です。
*舞台設定は短期合宿で帝光中泊まりで学年別の雑魚寝。
*最終日は他校を招いて練習試合というメニューの予定で、キセキは二年生です。軋り始めくらいな。
 
 
 
 

【PDF版】<<※作製は未定です>>

 
 
 
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夜に蓋をする
 
 
 
 
 部活動の合宿は朝から夕方まで練習ばっかりだから夜更かしできるような状態じゃない、消灯時間ともなると夜更かしもせず、天井見ながら話したりしていた声もやがては寝息に変わり、やがて、しんとなった。
「……」
 紫原は真っ暗な世界の中でなんとなく眠っているようなそうでないような心地にいて、寝入ったり覚醒したりを繰り返していた。今日はなんだかよく眠れない、眠いはずなのにことんと落ちるとすぐに邪魔をされて眠りの底に落ちて行けない。身体がざわざわする、得体知れない興奮だとか熱っぽいとかでもなくて面倒だ。とはいえ起き出してしまうとコーチもいい顔をしないだろうし、先輩も赤司にも咎められるだろう。
「うーん…ん?」
 右隣の布団の気配がすうっと消えていることに気付いた。どこからともなく漏れている淡い光がある。ああ、トイレにでも行ったのかと思う。隣の黒子は練習でくたくたになっており、布団に入ると同時に眠りこけていた。青峰もちょっかいを出す余裕がないことにぶちぶちと文句を言っていたが、三軍からひと息に一軍入りした黒子はすぐさまこちらのペースについて来れるはずもないのは明白で、その辺りのことは仕方がないと思っているようでもあった。吐いたり、筋肉痛がなくなっただけ彼もまあ追いついてきたということなのだろう、青峰は楽しくて仕方なさそうにしているし、緑間は図太さに呆れたりはするもののそれだけで、赤司に至っては黒子を認めており、さらには自分達とはまるで性質の異なる特性については期待もしているようで、紫原としては逞しさは認めてはいるものの、そんなのをただ眺めているようなものだった。でも室内がまだ明るいうちからころっと寝てしまったのは羨ましい。
「んー…」
 寝苦しいというか息苦しいというか、やだなあ。
「前はもっとなー」
 呼吸だって楽だったように思う。何度目かの寝返りを打ち、左を下にして横を向く。
 いまいちまだ黒子が何者かを捉えかねているので、菓子の話が合うこと以外はなんとなく馴染めていないような気がしている。大きな顔をして入ってきた黄瀬すら———
「…っ」
 あれ。
 ぽすんと、いま背中にふわっとしたものがくっついた?
「……」
 紫原は黙ってそっと背中に手を回してみる。何やら物体がひっついている、体温があるものだ。思わず剥がそうとして寝ぼけているだろうチームの誰かだと分かり、溜息を吐く。
「赤ちんが怒るしなー…」
 誰がごろんとなってきたのか知らないが、ここで自分が雑に払って下手に相手が傷を負おうものなら叱られるのは紫原だ、それはあまりにも理不尽で、同時に面倒臭くなる。
「加減なんて分かるわけねーじゃ…」
 相手が頭だろう部位を擦りつけてくるように動かし、次には紫原の背中とシーツの間の隙間に丁度良く埋まる位置を探るべくもぞもぞと動き始めた。どうも動き方といい、サイズは青峰や黄瀬ではなく、考えられるのは黒子あたりだ。
「ねー、だれー?」
 後ろに身体を捻るようにしつつ、軽く相手を叩くようにして問うてみる。
「…ぅ」
 返事の代わりに言葉ともつかない声が聞こえた、黒子だと分かる。音もなく戻ってきていたのか。彼の声はいつもがさがさしたところがなくて、怒っていても落ち込んでてもあんまり変わらないからやりにくいと思うことが何度もある。直に肌に響くようなそれはどことなく不快そうで痛みを堪えるようでもあり、我知らず紫原は背中を突っ張らせてしまう。あくまでも軽くで、力なんて入れてない。
「ちょっ…」
 黒子は紫原の横向いた背とシーツの間に頭を埋めるようにして、そして落ち着いてしまう。かさりと背中を擽られるようで、うわっと訳が分からない感覚が全身を貫いては声も出ない。何だろう、軽いような、それでも確かにあるものがくっついている。
「…くろ」
 無音だ。のろりと彼は紫原にも分からないような動きをしたらしかった。ただ、あたりの空気を掻いただけの些細な音だけが聞こえる。
「…ぅ、大丈夫…すよ…」
 大丈夫って何。ナニソレ。腕とかどこ。オレ、敷いちゃうって。
「……」
 ふわっとしたそれを押しつけられたまま聞く寝息は穏やかで、全身の力を抜いた安堵感を一身に背負わされたような気になる。
「もー」
 紫原は動けなくなってしまった。
「黒ちんてずりー…」
 溜息が出る、けれどもふんわりとしていて小さく背中にあるあたたかさは疎ましいどころか、なんだか悪くもなく、懐かしさみたいなものもこみ上げてきて、いつしか眠ってしまった。
 
 
「…あ、潰れてない」
「なんですかそれ」
 朝起きたら黒子と同じ格好で寝ていたらしい、なんだその同調率、と虹村にも笑われた。赤司はどこか満足そうに打ち解けたようだな、と言う。解せない。
「変なの」
「え?」
「…あんま寝付き良くなかったんだけど」
 寝起きのハネ具合はなにをどうしたらそうなるのかと思えるくらいだったのが、あっさり重力か引力かに屈し、頭髪は落ち着いてしまっている。朝食のトレイを手に黒子はきょとんと紫原を見上げると
「ボク、鼾でもかきましたか?」
 イビキとか弱っちく食も細い黒子にあまりにも似つかわしくないが、実際、まったくそんなことはなかったのでぶんぶんと首を横に振る。
「聞こえたとしても黒ちんじゃ雑音にもなんないし」
「ナニナニ、何の話?」
 馴れ馴れしく黄瀬が割り込んでくる。お前には関係ないとばかりに黒子は黄瀬を見ようともせず「なんでもないです」で終わらせる。教育担当係の斬りっぷりは慣れたものだった。
「お菓子の食べ過ぎとかじゃないんですか?」
 夜食だとか言って食べてたじゃないですか、と黒子は紫原の横に並ぶようにして席に着く。当たり前のようにその正面に黄瀬が座り、欠伸をしながら青峰もやって来た。
「食べないとオレ朝動けないんだけど」エネルギー不足で。
「紫原君の家のエンゲル係数って…」
「よくわかんない」
 ただ、自分ではこんなもんだとは思っている。
「身体がミシミシする音とか慣れたけどー、でも」
 でかいとか力が強いとか〝正義〟ってのはきっと間違ってはいないんだろうけど、紫原にとっては『だから何?』というだけでさほどいいこととも受け取れない。
「……」
 続きは、とばかりに横から黒子は無言の圧力をかけてくる。醤油を取りながらめんどいし、と呟いた。
「いや、お前が特殊なんだと思うぜ、テツ。もっと食えよ、ぶっ倒れんぞ」
 青峰はもしゃもしゃと食いながらもさつきなんて、と言い掛けては背後から幼馴染みのマネージャーに(わざと)やかんをぶつけられていた。
「ってぇな、お…」
 物言いたげに彼女の背中を振り返るが、相手の冷たい反応に小さく舌打ちして食事を再開するだけだ。
「そうそう。大きくなれねーッスよ」
「…黄瀬君達が尋常でなく早いだけでボクは普通に成長中です」
 黒子は俯き加減に箸を動かし、表情も変わらないものの、黄瀬の余計な一言にはかちんときたらしく、声は尖っていた。
「ふ…」
 ふわふわだったじゃん、と紫原は喉から本当に口先まで出かかったのを豆腐と一緒に呑み込んだ。別に黒子がむっとしたからって、彼がまだ力もついておらず、(紫原から見れば)小柄なのは厳然たる事実だから憚ることじゃない、けど、止まった。
「『ふ』?」
 黒子はやっぱり平板さを失わないまま聞き咎めてくる。
「普通かもだけど普通じゃないじゃん、黒ちんは」
「……」
 シンプルな力に敢えなくぺしゃんこにされそうな、弱い塊だ。限りなく透明で、清浄な水で作られたかのような人形みたいだった。気紛れにそれは自分の背中に落とされて、背と物の隙間に蓋でもされているのかと思った。
 夜に発する何かを彼は抑え込んでいるような、逃すまいとしているような。
「だからそれでいーよ」
 なんとなくだけど、紫原は妙に落ち着いてすとんと眠りの底にまで辿り着けた。不気味なくらいにひっそりした、ただ暗い中に窮屈に丸まっていた自分達は大きな掌にすくい上げられて伸びやかに眠る。
「つか、ミシミシいうのが煩くてあんまりよく眠れなかった」
「あーそれ〝家鳴り〟ってヤツか」
 体育館とかでもたまに聞こえんだよな、と知った風に青峰が言う、居残り練習で聞いていたりするのだろう。黒子は黙っているが、黄瀬はナニソレという顔をしている。
「かもね」
「紫原君、平気ですか?」
 夜に成長する音を止められなくたって、別に、そんなんじゃない。
「全然ヘーキ」
———ああ違う、初めてまともに呼吸が出来たような気がしたのだ。
 そこに影が居ただけなのに。
 
 
 
 
 

190915 なおと 

 
 
 
 
 
 
 
 

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 考えてみればあんまり紫原について考えたりしたことがないなと思って。
 でっかい子供ってのと菓子好きが際立ちすぎていますが、聡い子だとは思うのでそれなりに巨躯を持て余し、
葛藤とかも折り合いを付けようとしていそうかなと。
 これからが黒ちんにとっては試練みたいなもんなんですかね。