シフォンケーキ

なんてことのない二人の日常を書いてみました。
立方体のシフォンケーキは、某有名料理雑誌のお取り寄せで紹介されてたのを、ネタにしました(笑)
 
まだ色々手探りなのですが、これはウコバクがいるアニメVer.設定です。
 

【PDF版】シフォンケーキ

 
 
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 分厚い本が入った紙袋を下げた雪男は、階段を降りきってそこそこ混んだ店内を見回す。
 正十字学園町でもそこそこ大きな本屋、陸奥国屋書店《むつのくにやしょてん》だ。雑誌、一般書籍、実用書、コミックスから、洋書、マニアックな専門書までを幅広く扱う、全国展開の店である。
 この町ならではの特徴として、祓魔師に必要な専門書が常時棚に並び、必要な本がなければ、勿論それらを取り寄せることが出来た。
 取り寄せを頼んでいた本が入荷したと昼に連絡が入ったので、学校帰りに取りに寄ったのだ。
 その広い店内の雑誌コーナーにいる燐を見つけて、近付いていく。燐は興味津々で雪男に勝手について来たくせに、八階建ての八階まで階段で登ると知った途端に「じゃ、オレこっちで雑誌見てるから」と言い放ったのだ。その当人は降魔剣を入れた刀袋を背負って、片手をポケットに突っ込んだ状態で器用に片手で雑誌を読んでいる。
 料理雑誌「セロリマガジン」と「キャベツタイムズ」は彼の愛読書だ。と言っても、立ち読みで済ませてしまうのだが。
 燐は一緒に台所を預かる悪魔、ウコバクと共に、生活費と食費の節約のため安上がりでボリュームがあり、旨くて、食べ飽きないメニューの開拓に余念がない。最新号を見かけると必ず新メニューを覚え、プロ顔負けの腕で振舞ってくれる。その技術を少しは勉強に生かしてくれないものかと、雪男は美味いものを食べられる幸せと共に、複雑な想いを抱く。
 最近では、練り黒ゴマを入れた味噌で味付けしたちゃんちゃん焼き風鮭の包み焼きと、豆腐に豚の薄切り肉を巻いた生姜焼きがヒットだった。
「兄さん、お待たせ。何か良いメニューは見付かった?」
「おお、雪男。これ見てみろよ」
 雪男に気が付いた燐が、読んでいた雑誌のあるページを開いてみせる。晩の献立に迷ったのか、周りで同じように雑誌を立ち読みしている女性客が、ちらちらと不思議そうな視線で奥村兄弟を見る。燐が料理を覚えた子供の頃から、良くあった風景だ。
「なに?ハニートースト?」
「シフォンケーキ」
 そこには小さな写真だが、香ばしい焼き目がついた立方体のお菓子が写っていた。どう見ても、雪男の知識にあるそれとは形が異なる。だが、キャプションには確かにシフォンケーキと書いてあった。
「ふぅん。あんまり見ない形だね」
「パンみてぇ」
「確かに。パンかと思って切ったらシフォンケーキでびっくり、とか。」
「あー、アリだな…」
 アリ?アリって言った!?
 燐の明らかに興味を引かれた感じの言い方に、雪男の頭の中で警戒警報が激しく鳴り始める。
 雪男も甘いものは嫌いではないが、残念ながらそこまで好きではない。一方で燐が懲り始めると、甘いとかしょっぱいとか、お菓子だろうが何だろうが関係なく、満足する出来になるまで毎日それが続くことになる。以前フォンダンショコラをしこたま作られて、酷い目に遭った。
「面白そうだけど。丸くなる素だよ、兄さん」
 その恐怖の思い出に顔をしかめながら、雪男は釘を刺す。
 それが判ったのか判ってないのか、燐は雑誌を戻しながら
「四角いのにな」
 と言ってひとしきり笑った。
「晩メシの買い物して帰ろうぜ」
 店を後にする燐の背中を見ながら、雪男は一つ溜息をついた。
「今のウマい返しのつもりかな…」
 兄が立方体のシフォンケーキを作り始めませんように、と祈りながら後を追った。
 
 

— end
by せんり