黒バス_29

 
 
*赤黒です。
*冬らしい何か、と思ったのですが、そういえばイベントがあったなと。
*原作で触れられたりしないそれぞれのおうちの話はこちらの領分と心得て。
*黒子っちは家ではママンとグランマには形無しの息子であるだろうなと。
*反抗期は中三のあの時期とぶつかっていたと想定して、高校生になったら割とやわらかな感じです。
*赤司さんは皆無だからこそまだひと悶着ありそう(可哀想設定ゴメン)。
 
 
 
 

【PDF版】<<※作製は未定です>>

 
 
 
<お願い>
※記載内の無断転載、無断コピー、データ転用、改変、再配布等はご遠慮下さい、お願いします。
 
 
———++———++———++———++———++———++———++———++———++———++———++———
 
 
 
 
 
 一月劇物
 
 
 
 
 二号の散歩を終えて黒子テツヤが帰宅すると待ち構えたように母が友人の訪いを告げた。
「え」
 松も取れてはいるが一月、年頭の挨拶に代えてとでも言いたげに居間の机の上には京都銘菓であるところの菓子折と大層な木箱が置いてあり、黒子用にだか京都地区限定のスナック菓子の包みも紙袋からは見えている。
「赤司君が、ですか?」
「こんなに頂いちゃって…」
「で、彼は?」礼を言わなければ。
 母と一緒に食事の支度をしていた祖母が怪訝な顔をする。赤司はついでに寄っただけだからと言って母と祖母が招じ入れようとするのを丁寧に断ったそうだ。
「約束でもしていたんじゃないのかい?」
「違うの?」
 二人揃って不安げな顔つきになる。女親が息子、そして息子の友人には弱いという一般論を間近に実感するひとときだ。黒子が赤司とは約束もしていなければ、会っていないし、連絡も取っていないことを知ると息子本人をおいて二人はあたふたとしだす。まるで預かった幼稚園児が急に発熱してしまったかのような狼狽ぶりだった。
「あ。すぐに連絡するようにしますから、警察とかはそんな言わなくて…、いえ、子供じゃあるまいし、父さんに電話とかいいですから」
「……」
 無言で睨まれてしまった。なんて薄情な、そんな非難の声が聞こえてきそうだ。
「…えっと」
 恭しい土産の品にあって失礼とかじゃないのか。
 母親も祖母も明らかに挙措がおかしい。むしろ家族ならではの素っ気なさである自分の方が浮いている印象だ。赤司のことだから東京に来たついでというのは嘘偽りのない事実に違いなく、時間があったから立ち寄ったのかと推測も出来る、だから勤務中(だろう)の父親にそれを報告するとか本当に止めて欲しい、どこの小学生と父親も苦笑するだろう。赤司本人が知ったら気まずく思うかも知れない、そんな彼を想像するのも楽しいような気がしたが黒子はすぐさま取り繕う。というか、そもそも黒子の友好関係の中で赤司は恐らくダントツにウケがいいのだ。
「ついでだそうですし、騒ぎ立てるほどじゃないと思いますけど」
 とりあえず暴走を止めたい。二人の目の前で携帯電話を取り出してみせる。
「でも最近は物騒だから」
「……」
 普段の放置ぶりからしてその『物騒』な懸案に息子は含まれていないらしい。いつまで経っても子どもは子ども、それゆえその友人も出会った頃の記憶のままということか。どうにも自分は置いてきぼりで、他人事のようにも思えてしまうので着信履歴に新着メールだのとのんびりと操作していたら急かされた。
 履歴を見ると過去の通話日時は二ヶ月前になっている、あれは一分にも満たないものだった。赤司とは冬の大会で会っているし、頻繁ではないがメールもする、年賀状もやりとりしているからコールしなかったのが二ヶ月というのは意外だった。
「気にしすぎるのもどうかと…」
 我ながら弱い、二ヶ月は確かにちくりと刺すものがあったからでもある。
「そういうことじゃありませんよ」
「そうそう」
「『これ全部俺の物だ』、と言ったら『そうだよ、全部君の物だ』って応えるものです」
「何ですか、それ」
「漱石の『行人』です」
 しれっと答える。離れない以上、確実に連絡が取れるまで見守るつもりだ、この二人。茶碗蒸しにすが立ってもいいのだろうか。黒子は息を吐いてリダイヤルのボタンを押す。
「しっかりしてる、厳しく躾けられたんだろうね」
「……」
 その通りなので黙るしかない。彼はまるで余白がないような行き方をしてきた、そのためあらゆる面でタフで、簡単に崩れたりしない。崩れるところを見たのはたったの一度きりだ。
「わざわざ家に来てくれるんだから、テツヤさんもそういうところを汲まないと」
「ああいう子は察してやるのが大事ですよ」
 そういうものだろうか。
 自分は彼と付き合ってはいるけれど、相手は紳士的な見かけによらず突進型で、衝動的に会いたくなるとか、流行の歌にあるような感傷をぶつけ合うような関係性などそういうのを否定はしないにしろ、首を傾げたり、あるいは鼻で嗤いそうな感じがする。だからこそ約束があったりするとそれなりに気合いが入ったりしてしまうのだが、逆に中毒性もあったりするから黒子としてはほどほどの程度でお願いしたいと思っている。クローズアップされやすい誕生日なんかがいい例だ。
「…でも王様は待つのが仕事ですから」察するも何も。
 ぼそりと反論する。
「何を言っているの、しっかりなさい」
「自信がなくても持つものなんです」
 などと思考を呼んだかのような叱咤が飛ぶ。むっとするというよりもひやっとした。たとえ意味不明でも改まった口調で言われたときは聞き流してはいけない、黒子は姿勢を正す。黒子家の女性はこのようにして強く、息子はぎょっとすることもしばしばだったりする。
「……」
 呼び出し音が続いている。聞いていると苛立たしいような切ないような気分になってくる。赤司が顔を見にふらりと立ち寄ってくれるのは黒子としてもちょっと頬が緩みそうになるのだが、それだけに残念なことになるサプライズは遠慮したい。
「察すると言っても…」
 赤司にはいろいろとグラグラさせられるし、一緒にいるのも居心地が良いから会うのは嬉しい。そりゃ頼られたら全力で応えようとは常々思ってはいるけれど、自分の手が必要なときは地球滅亡の危機くらいに手も足も出ないような状況でしかないのではないか。
 がちゃりと耳障りな音がした、留守番電話サービスに切り替えられるのだ。黒子は半分の落胆を抱え、すうと息を吸う。
「…黒子です」
 見守る二人は溜息を吐く。
「また、電話します」
 無愛想なメッセージが残る。それが聴衆には気に入られないらしい、再び溜息を吐かれた。
「心配ねえ」
「赤司君も忙しいんです」
 言外にちやほやしたってあなた方に構っていられないんですよ、と含ませてみたが相手には届いてない様子だ。
「違いますよ」
「そういうんじゃない」
 母親が諭すように言う、そこは息もぴったりに祖母もだった。では、何なのか。会えないのも気の利いた言葉を残せないのもそういう仕様なのだから仕方ない。こんな些末な邂逅なんて一度の機会を逃したら消えてしまうもので、きっとマッチ棒の火種よりも呆気ないものなのだ。
「……」
 手の中で携帯電話が震え、黒子は黙って耳に押し当てる。
「赤司君はお前に会いに来たんだから」
———『もしもし?』
 母と祖母、そして赤司の声が同時に耳に飛び込んだ。
———『黒子、どうした?』
 息が詰まりそうになる、焦がれてしまうから、この声は。
 
  
  
 黒子からの着信があった。
 赤司は京都行きの新幹線の切符を早い時間に変更しようとして窓口の列に並んでいたところだった。すぐさま列から離れ、コンコースに出て黒子のやや急ぐような声を聞く。黒子は時間があるならすぐに行くから待っていて欲しいと言った。それはあれか、去年も行った彼の誕生日についてだろうか、と赤司は思い、近くのコーヒーショップで時間を潰そうとした。しかし、そわそわして五分と待てず、外に出てしまう。プレゼントは何にしよう、去年と同じでも黒子は満足するだろうが、ここはひとつこちらが段取りをつけるというのも吝かではない、とにかく頭はフル回転で寒風も苦にならない、むしろ冷える方が冴えるので丁度良かった。やがて黒子は到着のメールを寄越してきた。長いような短いような時間の流れの中に漂っていたように思う、詰め将棋を解くよりも有意義であることは確かだが、姿が見えてほっとする。
「赤司君」
「早かったね」
 耳当てもなくマフラーの中に小さく埋まる顔、鼻の頭を赤くし、赤司が黒子家に持ち込んだ以上の手提げを抱えている。
「早くはないです」
「そうかな」
「予定よりは少し早かっただけです。大事な用ですから」
 なるほど、検索案内の弾き出した時間には勝った。…ほどにそれは大事な包みなのだなと赤司は納得することにする。
「ちょっと頑張りました、キミほどではないけど」
 顔は生真面目そのもので、重大な任務を背負ってきたかのようだ。とにかく暖かいところへと促すべく首を捻るとふいに手提げを突き出される。
「これ、祖母と母からです」
「あ、ああ、悪いね。これが用かい?」
 何だろう、ほのかに熱を持っているような気がする。黒子は半分はそうです、と曖昧な返答をすると扱いに気を付けて下さい、と続けた。
「お弁当です、口に合うといいんですけど」
「え」
「二号にも挨拶させたかったんですけど、時間が掛かってしまう上にケージなしには駅に入れませんから」
「黒子、その」
 予想外の、なんというか至れり尽くせり感というか、なんだろうこれは。ふいに顔が赤らんで焦ってしまう、発作的に彼の家に連絡もなしに押しかけて行って、それで自分はこんなことされていいのだろうか。
「会いに来てくれて有り難うございます」
「…いや、礼なんて、こっちの方だよ。ついでに寄っただけなのに、こんな心づくしの手土産を届けて貰えるなんて」
 黒子はじっと赤司を見上げると真っ直ぐに言う。
「いいえ。自惚れていいですか」
「……」
 黒子は用心深く周囲を見回して辺りに人が少ないのを確かめるととすうと息を吸って、覚悟して下さい、と低く告げた。
「? …っ!」
 ぶつかるように相手の身体が当たり、首を捻る隙もなくぐっと抱かれる。
「嬉しいです、キミに間に合ってよかった」
「く、くろ、こ…」
 当たり前にやさしげな柔らかさもなく、それこそアタックというのが彼らしい。それにそこそこに力もある。
「キミに何か良いことがありましたか? それとも不愉快だったことでも」
「別に、そんな…」
 なのに伝わってくる体温に心臓が跳ねて、どうにもならなくなる。なぜ彼は自分が欲しいものが分かってしまうのだろう。胸が熱くなる、訳が分からない。どうしよう、手提げを落として抱きすくめたい、腕の中に飛び込んできた僥倖をいますぐ味わいたい。
 どうしよう、泣きそうだ。
「冬は、寒いな」
「そういうものですけどね」
 童話でも語らせていたいようなゆっくりと穏やかな中音は達観したような台詞を吐き出す。そういうのも耳にくすぐったくて、響いて、頭がくらくらしてくる。半分の届け物が手の中にある。
「寒いから会いたくなったんですか?」
 赤司は黙って首を横に振る。
「寒くたって暑くったって関係ない」
 目を合わせた黒子は困ったように少しだけ眉を顰めてみせる。
「オレばっかりがお前に会いたいのは癪だよ」
 触れた頬は冷たかった。
「負けてばかりだ」
 情けなくも零れ出た言葉に相手はむず痒いような顔をする。何かを言おうとして、諦めて、促されるままに目を閉じる。
 とけそう、と微かに聞こえた。
 瞼は薄く震えて、唇はやわらかくて、舌は甘い。
「…赤司君」
 何度も。
 体温を確かめる。
 気持ちを確かめる。
 彼がここにあることを確かめる。
「奇遇ですね、ボクもです」
 相手は悪戯っぽく笑う、こんな幸せな敗北ってないだろうと思う。無論、他にあったとしても知るつもりはいまのところ赤司にはないのだけど。
 
 
 
  
 
 

160117 なおと

  
 
 
 
 
 
 
 

**************************

 
 
 

だいぶ遅れてアニバスのDVDの9巻を見ました。
特典CDの紫原っちに手を焼く赤司さんが面白いなと。なんか従兄弟同士みたいな。
そんで洛山のみんながやさしい…。

 

黒子っちは『年に一度思い出して貰える』とQ75.5で言っていましたが、
こじつけでも何でも祝って貰えるなんて果報者じゃないかと。
というか、覚えていて、遠慮もしたりする火神くんは可愛いやつです。ここには出てないけど。
赤黒は冬生まれなので、ぬくぬくと祝い合うといいですよ。