黒バス_10

 
 
※赤黒です。
※風邪引いたので風邪を引いてみました(テンプレ型設定)。
※皆様、これからインフルなど流行るだろうのでどうぞお気を付けて。

※ちなみに可変テキストとしてこれから修正作業していくつもりです。

 

【PDF版】<<作製は未定です>>

<お願い>
※記載内の無断転載、無断コピー、データ転用、改変、再配布等はご遠慮下さい、お願いします。
 
 
 

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黒子が風邪を引いた(10w)
 
 
 

 というわけで、と赤司征十郎は言った。
「平気か? テツヤ」
「……」
 黒子テツヤは一度は開けかけたドアを僅かの隙間だけを残して閉め、それなりに頑丈な扉一枚ぶんを隔てた家の内側で無言のままメールを作成する。このタイミングで持ってて良かった携帯電話、とつくづく思いもしているがそんな安心に浸っている余裕などなかった。忙しくキーを連打する。
『誰に聞いたのですか』
「親切なお前のチームメイト達だが?」
 赤司は器用に足先と左手を滑り込ませ、端末の画面を見ながらさらりと応える、しかも敢えて誰とは言わない。火神くらいしか先週のオフのことは知らないし、先輩やカントクも他意なんてなく素直に伝えたのだろう、そんな彼らを恨むのは筋違いであると黒子だって解っている。
「…ちっ」
「塩辛声で舌打ちをするな」
『というかなんで東京』
 文字をいちいち入力するのももどかしいけれど仕方がない。何しろ相手はドアをこじ開けようともせず律儀に黒子の返答を待つのである。句読点は無視だ、助詞って何? 言葉が繋がればいいので予測変換を多用、赤司は読んでから間髪を容れない間で答えてくれる。
「用があるから」
『きいてませんそうですか』
 さりげなく撤収をお願いしようにもがっちりと食い込んだ力はまるで怯むことがなく、当然のように微妙な均衡を保持している。いくら敵チームとはいえ、ばたんとやって彼ほどの優秀なプレイヤーにこんなところで怪我を負わせるわけにはいかない。しかし追い返したいのも本音で、黒子はそのジレンマに悶えそうになって咳をする。
「無理をしたのはお前だったんだな…」
『ちがいます』
 強がりともいう、されど負けてたまるか。
「せめて見舞いにとお前の好物を持って来たら、あいにくとご両親も不在ときてる」
『お構いなく』
「そうか。そっちの方がいいと言うならいますぐオレが完全看護下に連行しよう」
『痛み入ります御免蒙ります』
 話を聞いてください、と言ってやりたかったが案外に物知りな携帯電話の変換能力の方に少しだけ驚いてもいた。本当はいろいろな意味を込めて〝お断りします、ごめんなさい〟と送りたかったのだが、まあ文意は間違ってはいない。こんなときは素っ気ないくらいでちょうどいいのだ。
「テツヤ」
 赤司は画面を見てか溜息を吐くとドアを二度ノックする。
「お前は会いに来た友人をすげなく帰すというのか?」
「……」
 そうじゃない。
 鼻を啜りながら『お構いなく』から『お構いできず』と変えてふーと息を吐いた。まったく喉は痛いわ、身体は怠いわ、嚔から始まったこの感冒は呼吸器に集中砲火を浴びせてくれ、熱のせいか頭はぼーっとしたまま思考能力さえも奪おうとしている、目の前の相手くらいに手強い。
「食事は摂ったのか?」
 諦めてドアを開けると満足そうな顔を浮かべる赤司が立っていた。中学の時はなんというか、打ち解けはしたけれど距離を措いたし、そもそも彼自身も他者との接し方は淡泊な感じでもっと潔かったと思う。伝染したくないし、情けない姿を晒したくもない、彼だってそんなの承知だろうにあっさりと物分かりの良さを捨ててしまっている。そんな潔さはいらない。
『…さっき起きたばかりです』
 赤司の手にしている携帯電話はやっぱり電話も出来るという種類の端末だ。メッセージを機械内蔵の音声で読み上げられないだけましだが釈然としない。木曜日、カントクに退去命令を出され、部長に追い出されるように体育館を出てからあまり記憶がない。ひたすら眠って、母の作った雑炊を食べて、寝て、着替えて、食べて、寝る、で、まる一日を過ごした。今朝は混み合う医院で通常の感冒であると診断されて薬を貰い、飲んで寝た。そして気付いたらいまで、携帯電話の表示では昼の十二時を過ぎている。
「熱は?」
『だいぶ下がったと思います』
 手を伸ばして額に触れてくる、紙袋はともかくコンビニのビニール袋はあんまり赤司には似合わない。すぐに離れなければとも考えたけれど、困ったことに相手の手は冷たくて気持ちが良かった。
「失礼するよ、台所はこちらかな」バニラシェイクは冷蔵庫に入れておくから。
 招かれざる客人はそのままリビングに進んでくれると思いきやすぐに狭い廊下を折れてしまう。
「…っちょ」
 口を慌てて閉じる。マスクはしているものの話したくないし、自分で聞きたくもないし聞かせたくもない声で無言で赤司の服を引っ張る。机には盆と薬、シンクの上には小さな土鍋と丼に入った白米が置いてあった。下準備をして出かけるということは遠出の買い物か急な何かだろうと察せられはしたが空腹でもないのでいい、ぐいぐいと離れようともしない赤司の腕を引っ張る。
「粥の用意がしてある」
 それどころか土鍋の蓋を開けて覗き込み、唸りもする。
「……」
 腕を掴んだまま、背中を叩く。訴えたつもりだった。
「…よし。不調法だがとりあえずやってみる、テツヤは寝ててくれ」
「……」なんですと?
 
 
 そういえば健康状態を記録し、統計を取っては体調管理に一役買っているアプリケーションはあるけれど、体温を感知する機能のものはない。静脈やタッチ式の認証システムが当たり前にあるのだからそろそろ付属部品なしのものが開発されてもいいと赤司は思う。とはいえ、直接触れる方が手っ取り早いし、胡散臭さの残る機械より信用も出来る。掌なんていういい加減なセンサーは機械に勝るとも劣らない、…はずだ。
 もはや電話の領域を超えている端末機器を赤司は何気なく眺めてから仕舞う。『テレフォン』の『フォン』は付いているが電話でありたいのか、単なるいわゆるガジェットに電話の機能を付けて並べてみただけなのかとどうでもいいことをどうでもいいと結論づけながらも頭打ちと言われている市場を思った。まあとりあえずは多機能なツールとして役に立っている、検索画面に単語を打ち込めば得たい情報は得られたのだから。
「テツヤ」
 部屋のドアをノックする。返事は言葉ではなくて咳だった。
「レシピ通りに作ってみたが旨いかはわからない」
 台所に用意してあるそのままのものを使って調理をした、コンロにあった片手鍋にスープがあって、密閉容器の中に梅干しがあるのを見付けた。包丁なんて持つのは久しぶりで、鶏卵はともかく大根の切り方について調べるというのも滑稽な話で、これで不味かったら目も当てられない。盆を抱えるように持ちながらドアを開ける。
「あ…」
 部屋の主は半分脱いだシャツをそのままに背中を丸めて口を押さえていた。
「ちょ、入らないで下さいよ、赤司君」何で普通に病人のいる部屋に居座ろうとするんです。
「酷いを通り越した声だな」
 かたかたかたと時にはまるでタイプライターの打音みたいに単調で、それでいて耳に通りのいい中音で丁寧に話す、飄然としていて、少年らしい軽さが耳朶にすんなりと染み入り、それが塩辛くも寂声に変化するというのはレアだ、入っていくと黒子は赤司に寄るまいとしてじりじりと引いていく。
「…ボクが、台所に行ったのに…」
 息を吐き、シャツにカーディガンを羽織るとマスクを着ける。
「食べる前に熱測るか? 冷却シートは買ってある」
「だから…」
 掠れた声は撚れ、咳になる。盆を机において背中を撫でようとしても相手は触れさせようとはしなかった。避けて払うような素振りをし、感染しそうなエリア内にあろうとも感染源には近寄せないという意思が見え、赤司は手を下ろす。調子が悪いこともあって黒子は機嫌も悪そうだった、頭が重いとか、喉が痛いとか怠いとか聞いて慰めてやりたかったが病人に気を遣わせるようでは寧ろ役に立たない。
「悪かった、置いたら出ていくよ」
 踵を返そうとすると腕を引っ張られる。
「…なんか悔しいです」
 相手は諦めたように呟いて、「すみません、用意した白湯がもうないんです。水を持ってきてもらえませんか」とぼそぼそと続けた。
「君が、慣れない炊事でせっかく作ってくれてもボクには味だって分からないんです」
 悔しいですよ、と負けず嫌いの男は諦めたように言った。
「テツヤ」
「なんやかやと動いていていつも忙しい君は元気そのもので、落ち込みそうになるし、差を思い知らされてほんと嫌になります」
 声は悲壮感を増して、より痛ましい。
「うん。免疫機能はともかく、この味についてはオレもわからない」
 体温が上がるぶん、免疫機能は高まるという。
 赤司の体熱をほんの僅かだが上げるのが彼の掌だったり髪だったり仕草だったり、声だったりしている。目盛り一つぶんではない、体感も覚束ないほどの小数点以下での差異を気付いたときは変だとも思わず、そういうこともあるのだなと考えたが、それは黒子が知らなくてもいいことだ。
「難しいものだな」
 それでも、彼の免疫力は寒風に負けた。赤司にはどうすることも出来なかった、この差の方が自分には大きいもので我慢しがたい。
「……」
 黒子は拍子が抜けたように赤司を見ると、そうですか、と応えた。
 
 
 赤司の作った粥を食べた。薄味でやっぱりよくわからなかったけれど、常に身ぎれいすぎてあまり生活臭というものが感じられない彼の手料理というのもそれはそれですごいものを見ているような気がしたが、底に焦げつきがあって二人でそれを眺めたりした。
「火加減か?」
 真面目な顔で腕を組む。無造作にハサミで髪を切ることは何てことないのに、具材を切るというのに手間取ったらしい。そんな彼を見てみたかった。
「手際とか言いますしね」
 薬を飲んでから応えた。喉に湿り気のあるものを通したので少し楽だ、赤司によって布団に追いやられているが、眠くなる前に彼を見送るくらいまではしたい。
「ごちそうさまでした」
「まだ残っている」
 首を横に振る、もう無理だ。相手は食い下がろうとはしなかったが気遣わしげな視線は向けた。こういうのもあまり受けていたいものじゃないと思う。
「…息抜きのつもりで誘って、赤司君はまったくの無傷で君のことを心配してるボクが呆気なくノックダウンされるなんて」
 赤司の盆を下げたり水を置いたり、てきぱきとした所作をぼんやり目で追いながら口を開く。
「まあ、基礎体力だな」釣りは面白かった。
 相手は冷却シートの箱の中を覗いている。同じ環境下で、同じ時間、外にいたのに自分は潮風に喉をやられて彼はダメージがまるでないどころか。
「……」
 不調法だろうが不躾だろうがやろうと思えばたいていのことは出来てしまう人間で、おそろしいほどの努力もこなしてしまえる。恵まれているが故に、敬遠されて崇められて、また無意識にそんなのに応えようともするから赤司が赤司でいることはさぞや大変だろうと黒子は感じるのだけれど、それは自分が持たない方の人間だからだ。彼に言わせればすべてが至極当たり前で、どこがどう大変なのかと首を傾げるのだろう。
「君はボクが知らない間に調子を崩して勝手に治ってたりしている」
「こっちの台詞だ」
 聞き流すみたいに応える、責めたりはしないけれど誰彼が運悪く体調を崩しても自分に影響はないし、それによって崩されることもないのが当たり前、そう言われているような気もする。
「心配してる方が損して、虚しくなります。…だから君と居ると嫌になる」
 駄目だ、と赤司は言った。
「それは困る」
 はっきりしている。黒子の元に座り込み、まるで嘆願を受け付けない頑なな役人のようだった。
「代わりがないのは既に実証済みだし」
「……」
 これが意中の異性相手の言葉だったら彼はその相手から渾身の一撃、あるいは痛烈な何かを食らってもしょうがないだろうとなぜか冷静に考えた。黒子もチームの役割としてならば認めるところだが、個としての人物で言われてしまうとどうなんだと率直に思う。
「テツヤは嫌か?」
「微妙ではあります」
 我ながら答えになっていないと思わないでもない。赤司は考えるようにぐっと口元を引き締めた、何というか何気ないつもりだったのに言葉に対しての反応はこっちの方がはらはらする。
「あか…」
「言い換える」
 続けようとはさせず、相手は言った。
「その、どんなに面倒だったり煩雑だったりしても、苦にならない。お前の声を聞いて、顔を見ると吹き飛んでしまう。他はどうでもよくなってしまうから」
 座り直し、思い詰めたように言ってくる。
「赤司君…」
「だから困るな、とても」
 自嘲するように言い、お願いだと続きそうでそんなのももうむず痒くて、それは勘弁だと誤魔化す言葉を探した。
「ボクを精神安定剤みたいに云わないで下さい」
「副交感神経と交感神経が毎度大変なことになる安定剤は安定剤と言えるのかな」
 黒子は反論も言えないではないかと口をへの字にして黙り込む、それは察して欲しいと訴えかけてもいて、赤司の好意には打算はありそうでも嘘が見えなくて、…結果、固まってしまう。食ってないけど食えない人間は手に余るし、しかも疲れる。
「……」
「心配なら、オレを突き放したりするな」
「そんなことは」
 出来るなら、と相手は手を伸ばした。
 こめかみにから指を差し入れるようにして髪を撫でる。咎めるべく眼差しをちらりと向けたけど効果はなさそうで俯いてしまう、されるがままこんなことするから、と掠れた声で呟く。
「めいっぱい褒めて、甘やかしてくれ」
 誰のせいでか再び熱を帯びた身体を引き寄せる。力は出るけど持続しないし加減もできない、黒子はどうにか拳ひとつ分ほどでも距離を作ろうとして赤司の胸元でぐっと掌を握った。
「先週会えてしまったから、すぐに会いたくなってしまった。人恋しいとか、一緒に寝てくれとか言ってもいい」
 頭髪に唇を押しつけて、額や生え際を啄む。これでは赤司の思いのままだ、煩わしくもないから困る。
「…何、言ってるんですか…」
「チャンスを狙っている」
 先週会ったときに、満足できなかったと相手はほざく、一応釣果はあったのに。
「……」
 マスクを握り締めたまま何も言えずに黙り込む。明らかに発熱してじっとりと汗もかいている。顔を寄せられてぴしゃりと左手で阻んだ。
「うつりますよ」
 本当に酷い声だと思う。この方が早く治るとつっ返され、バカですか、と呆れて言った。
「愚かな僕には興味もないって?」
「無関心ですかボクは君に対して」
 不愉快を抱えた切り返しは思うよりも毒があった。相手は悪びれた様子もなく詫びる。
「済まない、調子に乗りすぎた」
 じろりと睨め付けるようにするが何しろ風邪引きという有様なので息切れするかのように持続しない。赤司は甘えられたら吝かではないとでも言いたげな様子だけど屈するわけにはいかない、身体を引き離すようにするとあっけなく手放して上着の襟をかき合わせてくれた。
「……き、ですよ」
 観念したようにぽつりと吐き出す。怒っているようにも拗ねているようにも聞こえた。体重を赤司に預けるようにして、しんどいのは本当なので振る舞いもどこか面倒げになってしまう。
 悔しくて嬉しがるなんて赤司は知りもしないだろう。
「…うん」
 手が重ねられた、自分とそう変わらないあたたかさに思える。皮膚が触れているだけなのに心音まで伝わりそうで息も出来なくなりそうになった。
「もういいです、なんか君、釣りなんかより凄く嬉しそうだから」
 髪が顎の下で擦れる音がした。吐息は熱くて、身体の芯にじわりと火を灯す。薬のせいか、ウィルスのせいか、赤司のせいかも判らない。
「好きにして下さい」
「遠慮なく」
 顎を気持ち持ち上げるように手を添えられて赤司の顔が見えた、正視できない。オレの粥を食べたからたぶん大丈夫、と輪郭を指の腹で撫でながら諭すように赤司は囁く。
「何ですかその呪文みたいな」
 笑ってしまった。ここにはない匂い、変わらない声。室内は静かなのに密な空気が漂っている。口腔内の熱さを確かめてから、改めてゆっくりと相手が体温を奪ってゆく。
 解れたように漏れる息さえ、残さず。

 
 

141123 なおと

 
 
 

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 基本的なネタなのでもっといちゃこらさせたいです。
 加筆修正してやりますよ、ええ。
 
 いまは思いついたから急いで書いてあげたというところです。
 やらねばなことが待機しているのでお互いに頑張りたいところ。
 
 ああ、ドリライだー。
 
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 ちょっと足しました。
 ドリライ、終わった…2nd、終わった…。
 なんだろうね、明かりが落とされた劇場の客席で一人ぼっちになったようなこの寂寞感は。(131206)