黒バス_22

 
 
 
*『綺羅とノンフィクション』のおつまみ挿話です。
*とりあえず青峰編。
*元相棒だけあって、黒子っちも青峰には火神んに次いで馴染みやすいんじゃないかなって思います。
*ギクシャクするのは赤司だけ。何故なら同じ俺様的な属性でも青峰のが可愛げがあるから。
*ついでに千尋くんにはめっさ懐くんだろうなって考えたんですが要らぬ事を仕込みそうでもあるのでやめました(ちなみに原作初出のとき、妹いそうと思ったのですが一人っ子でした、残念)。
 
 
 

【PDF版】<<※作製は未定です>>

 
 
 
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青峰くんとあそぼう。
 
 
 
 
「…赤司さんの学校でもないんですね」
「まー、フツーはインハイ優勝校だよな」ウィンターカップとも日程ズレてるし。
 と、青峰大輝は欠伸をしながら応える。
「なんか、高校で出場するってのもややこしい問題があるんだと。新人戦もあるし。こっちは知ったこっちゃねーけどよ」
 幼なじみの桃井さつきに釘を刺されているので投げ遣りだったりぞんざいには出来ない、何しろ青峰は彼女の代理だ。記憶を失ってまっさらな黒子テツヤに悪い印象を与えようものなら幼少の砌から弱点もろとも知悉されているがゆえの渾身のダメージを与えられることは間違いなく、それが黒子絡みだったらなおさらで、青峰はそんなのは考えたくないと虚空を睨む。
「その、…統合関連でしょうか」
「かもな」
 統合とは? 実は青峰はプレーについては大体知れるぶん、他は深く考えてたりしないため詳しい内情なぞ分からなかったりする。いやむしろこっちが訊きたいけど訊けない、そういやと事前に送られてきたメールを見る、幼なじみが箇条書きにしたデータだ。黒子が困らないようにとせっせと情報を集めて説明してやれと押しつけたものだった。頭に入らないものは入れないのが信条だが、それを曲げるほどの『まさか』が起こってしまった。青峰にも訳の分からない遣る瀬なさに舌打ちしか出なくなり、自分がショックを受けていることに軽く怒りもした。ひと月で治るような怪我で良かった、赤司によれば障害や後遺症の心配もなさそうで、人形のようにぴくりともせず流血していたまま倒れ伏していたあの姿を思えば安堵するべきだろうに、敗北感にも似た苦みが青峰の口には広がった。誰かともつれ合って転がり落ちて入れ替わった方が展開としてよほどましだと思えたくらいに。
「緑間んとこと試合したんじゃね? 興味ねーし、知らねーけど、オフィシャルが超うめェ学校らしい。さつきが言ってた」
「桃井さん、ですか?」
 ものすごく他人行儀だったと幼馴染みの落ち込みっぷりは大きかった。いつもどーんとぶつかろうとする挨拶さえ思いとどまらせる何かが間に立ちはだかっていたらしい、さつきの好意に溢れたアタックを無表情に受け止める黒子テツヤは確かにいつもと同じように見えて同じではない。彼には過去の記憶が無かった。さっぱりと。
「あの四番の人、PGですよね?」
「…ああ」
 気に入らない。
「伊月先輩」
「赤司にしとけ」
 どうしてだ、というように無言なのに雄弁な視線をぶつけてくる。頬杖を突いたまま敵チームなんざ知らねえと言った。さつきは熟知しているだろうが、青峰は黒子の大事なチームメイトについてよく知らない。
「…そうですね」
 納得、という顔。
「誠凛は、お前使ったフォーメーションとかスタイルが変だったりすっからな」
「……」
「帝光時代のが分かり易いだろ」
 例えば、と十点の差をつけられてはいるが個人プレイが際立っている四番を示す、広い視野に得点力、チームの司令塔としても理想的な姿だ。ただ、クセなのか、偏りが見える。
「赤司だと、3《スリー》はやらせない。お前がいそうなところを狙ってパスルートを作るぜ」
「そうなんですか?」
 自分のプレイスタイルも忘れてしまった男は、新しいことを習ったような顔をする。これが何とも言えない苦みとなる、滅多に感じることもない感情に青峰はまたしても眉を顰めた。
「そうだよ」
 つい相手を軽く叩いてしまう。
「いた」
———ピピィッー!
 赤司に頼まれたこともあって黒子とバスケの試合を観に来ている。桃井の情報に加え、序盤から見たところ、チームの実力差があるようでもなく、試合は好カードに思えた。
「高校バスケとの絡みも分からないのですが、出場できたら青峰さんは出たかったですか?」
「……。〝アオミネさん〟ってヤメロ」
「呼びつけとかはちょっと…」
「そんなん、一度も呼ばれたことねえ」
 彼はいつも礼儀正しく『青峰君』と自分を呼んだ、怒っても、喧嘩しても、決して呼び方を変えようとしなかった。だけど、それはきっと彼自身が課した友愛の形だったのだと『さん』付けで呼ばれるまで青峰は気付きもしなかった。なんてつまらない、ほんと突き飛ばした奴、腹立つ。つーか、自分だったら落とさせたりなんかしなかった。さつきよりも軽いであろう体重を引き上げるなんて造作もないし、赤司の奴、そもそも何やってたんだ、あの野郎。
「……」
「あ。あ、では、あの、青峰君、あれ、今の」
「…あ?」
 黒子はセンターポジションの選手を指し示す、過ぎ去った目の前のプレーについて青峰の見解を求めているらしい。どっこい青峰は見てはいるが、目の中に写しているというだけだったので脳内に残りもしないから、うっと思う。
「あとでやってください」
「はあ?」
———ピィ!
 点が入る。
「あれを?」
 速攻からのレイアップ。基本中の基本に他ならない。
「違います、今のじゃなくて…」
———ガゴン!
 表情が薄いなりに懸命に手を動かし、再現プレイについて説明しようとするうちにもホイッスルが鳴り、他方にも点が入る。わあと周囲がどよめく、うっかり二人で見逃した。
「…青峰君、ちゃんと見てて下さい」
 声が悔しそうだ。手にしていた飲み物を啜る、もうとっくに中身がなくなっているバニラシェイクだ。
「お前だろ」
 身勝手さにかちんと来たが、なんだか可笑しかった。
「…テツ」
「はい」
 正面を向きながら相手は答える。横顔は真剣そのものだ、もう絶対に見逃さない、そんな決意が気持ちいいくらいに分かりやすく伝わってくる。
「お前が、頭打って記憶失くしたからって、誰彼に対してんなバカ丁寧なことする必要ねーんだよ」
「……」
 赤司は、気を遣っていると、言っていた。このままだと過去に萎縮してしまうかもしれない、だから出来るだけ彼と会ってほしい、と。どうして素直に『会うようにしてくれ』と頼めないのかと思ったが、赤司だからしょうがない。彼も自分も、こんなときでも頭を下げられない方の人間なのだ。同族が寄り集まったのが帝光の『キセキ』と呼ばれる集団であり、異彩を放ったのが黒子だったのだ。クセと我が強いばかりの間を繋いで、渡して、大した奴だった、だから、失うのはキツイ。つまらない。
「なんか謝ってるみてーなんだよ」
 黒子は少し驚いたように青峰を見上げてから、そうですか、と言った。
「バカが、落ちやがって」
「心配おかけしてすみません」
「どうして、お前が謝るんだよ、そういうんじゃねえよ」
「青峰君」
「ぐっ」
 俯く顔を肘で無理矢理に引き上げられた。目に飛び込むのは轟く歓声、眩いばかりのライト、動き回るユニフォーム、弾むボール。縮まりつつある点差に、観客席は波打つかのようだ。
「あれやってください」
 隣の黒子は無表情に言う。リバウンドを利用したタップパス、ファウルをもらってワンスロー。ワンハンドダンクは火神が得意だ。
「また見逃す気ですか。僕、覚えたいし、早く進みたいんです」
「……」
 まあ自分が敵対するなら簡単にさせやしないが。
「これまでの僕が大好きすぎるのはよく分かるんですけど」ちょっとどうにかなりそうかも分かりませんし。
「…何でオレがやってやんなきゃいけねーんだよ」
 横から突き出た腕を払い、膝に頬杖を突く。
「友達だからです」
 それ以上に何があるのだ、と黒子は黒目がちな目を向けた。相変わらずぐいぐい来て、物怖じすることがないぶん力強ささえも感じられた。
「僕も君も歩みやら形は変わりましたが大事なことは何一つ変わってないと思うので」
 たとえば学校が違うから、所属するチームは敵となり、昔の記憶が無いからといって縁を切る理由にはならない。尤もなことなので青峰には言い返すことが出来ない。
「あれ? 間違ってます?」
 とぼけたように、飄々と、黒子テツヤはたいていそんな風だった。でも諦めが悪くて、頑固で、何だかんだ言って打たれ強くてこちらが根負けしそうになることもあった。彼ほど堅固な門番を青峰は知らない。
「……」
 ポケットにある携帯電話が震えた。幼馴染みだろう、用を済ませたからすぐ駆けつけると本人はさぞや急いているはずだ。ボールを持ってフリーコートに来いと返さなければならない。青峰は雑に頭髪を扱く。
「つか、ひと試合ぶんのリプレイをオレにさせる気なのかよ」
 試合はまだ後半が残っている。
「出来ませんか」
「はっ。出来るに決まってんだろ」
 そう言うと思ってました、という顔で相手は微笑む。薄くだが、しっかり。
 
 
 
 

150822 なおと

 
 
 
 

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テレビ(BS)で観たプロバスケの試合はトラベリングが多くてあれって思いました。
いやいや、それは舞台で一人が噛むと噛むのが連鎖するのと同じで…そんなはずじゃないはずだ。
ともかくやっとリアルな方も統合問題も解消し、クジとか本気ですか、という今日この頃。
夏コミで『綺羅ノン(他略)』をまとめたのですが、挟み込みたかったこれらが出来ませんでここで。
あと緑間編と黄瀬編があったりします(頭の中には)。
紫原は遠すぎて菓子に尽きる。
悪態吐きながら黒子が好きそうな菓子を探しまくってその行動が室ちんから逐一火神経由で筒抜けだといっそう微笑ましいです。