黒バス_14

 
 
※黒バスで赤黒なんです(一応)。
※パラレルです。
※でも青峰と黄瀬しかいないらしい(どういうこと)。
※長いので跋文。前と続きは三月にまとめ読み出来るようにします。
 
 
 
  

【PDF版】<<※作製は未定です>>

  
  
 
<お願い>
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明日、キミに。
 

 
 
  
  兄弟は二人と二匹だった。
 正しくは、ひとが二人と犬神が二体だ。美しく舞う巫女に惚れた山犬が拐かしたとそれだけの話といえばそれまでなのだが、問題は山犬が神界の眷属であったということだ。
 巫女は犬神憑きであり、子を産めばみるみる人らしい気を失っていった。それは、住まう世と異なる世を彷徨うに等しく、人の目からふっと消えそうになることだ。三の年もなかった、巫女はすっかり弱まってしまった。生まれた頃より歩くことの出来た一番の兄が母の手を引き人に助けを求めて里に降りたところへ天狗に連れ去られ、弟二匹は途方に暮れた。二匹は化けることがまだ出来なかった。母は村人に見付けられ、人の元へ帰されたが、残された末の弟は人のままで成長も一番遅く、そして弱かった。
 彼らが出来たことは細る母の気を探し当て、末の弟をその社に置くことだけだった。
 山に囲まれた地であった話である。
 
 
 
 
 兄弟は上から緑間、黄瀬、青峰、黒子、と名がある。
 山の名であり、社の名でもあり、つまりは親である犬神が名告ったものだ、いやもう気に入らなくても受け入れるしかない。二匹はこの年、人の気に馴染むことが出来、ようやっと化けるのがさまになった。ついでに言えば、末の弟が心配で見たくてその一心で得たものだったりする。
 黄瀬と青峰は母が持ち直したと思われる頃、弟を覗きに行ったことがある。二匹は毛並みの美しい犬神ではあったけれど人の目には映らず、ごく僅かの人に認められる神力しかなかったが、母は兄弟を見るとすぐに手招きをした。腹掛けをした末の弟が健やかに眠っていた、弟を挟んで兄弟は久々に微睡んだ。母が儚くなり、長じるにつれ末の弟は人らしくなり、兄を見ることは適わなくなっていったがそんなことはどうでもよかった、人の生きる時間は彼らとくらべて切ないほど短い。
「何スかね、緑間っちは人がいいそうっスよ」
「…ふん」
 青峰は供えられていた団子を食みながら返事ともつかない返事をする。
「天狗はそんな嫌なのかって高尾っちが」
 どこからどう見ても人の子である姿を水たまりに映しながら黄瀬は停車場に向かう青峰の後をついて歩く。大人の足で半日かける道に工事のためと一日二本の車が走っていた。乗り合いもあるが、朝はこれだ。都の方は細長い市電というのがあってひっきりなしに行き来する、田舎とはいえ自動車など驚くほどでもない。いかにも近くの村の子という風にして二人はバスなる車に乗り、弟の黒子が通う学校へと運ばれる。
「連れてかれたのが嫌だったんだろ」
 緑間は兄弟の誰よりはっきりしていたので〝人〟が天分であると思いたいのだろう、どっこい眷属であることは避けられようもない、風も操れる天狗なので末の弟のようにはなれないことを二人は知っていた。
「黒子っちは、やっぱ人なんスかね」
 ぽつりと黄瀬が呟く。青峰は串を投げ遣りながらぶっきら棒に応えた。
「テツだろ? 人なんだから」
「人でも黒子っちスよ」
 彼は『テツヤ』と名を付けられ、三峯の摂社である社の子となっている。宮司は山の名を頂いた姓氏で代々続いていた。弟は無意識だろうが気を隠して奉納神事を舞い、神楽を奏でる。神はこれに耳を傾けるようになっている、見る者が見ればそれこそ神々しく思えるだろう、だがどうしてか地味で、そこが救いだったりもする。
「十二ってのはひと回りってんだろ」ナリが決まるのかもな。
 と、青峰は答えては串を捨てるなと隣の年寄りに拳骨を食らう。バスとは言うが、大八車に幌の屋根がついたようなものだ、前方のエンジンが引っ張っているというだけなのででかい荷馬車と乗り心地は変わらない。がたつきながら山道を進むのだ。学校へ通う子どもがいて、野菜を籠に積んだ夫婦がいて、行商風の男と話している。
「…だから旅籠でも旅館でもなく、ホテル!」
「おれァ倉庫と聞いたぜ」
 ぽんぽん声高に飛び交う言葉は訛りがさほど交わらない。乗客は殆どが職を求めて渡り歩いている者ばかりなのだった。
「中止にならなきゃいいけどな」
「大将は屑鉄もやってるそうじゃねェか、くたばるもんか」
 黄瀬は肩を竦める。どうにも月を過ぎるごと、小さくだが人の生活を絞っていくものがあるように思えてならない。ふと見るとそこだけ物がなかったり、ぐんと人が減っていたり、長引いている戦争のせいか歪さは知れない不安感を抱かせていた。隅の方で無言のまま蹲るように丸くなっている男が気にもなる、幾日も水をくぐらせていないような服を着ており、うつろな目をしている。男からは血と脂の臭いがした。
「ね、青峰っち」
 顔が俯く。人でしかなかった弟を結局は手放すことしかできなかった思いが深く残って消えないでいる。自分たちは守れなかった、人に預ければ育つと思っていたが、その人に命を奪われることになったら。
「あ?」
「変なことにならないっスよね? 兵とか」
「何言ってんだお前」
「『じゅうごのそなえ』ってラジオでも言って…」
 面倒そうに黄瀬を見る青峰はぎくりとしたように動きを止める。
「…お?」
 黄瀬達に背を向け、陽気に喋る男二人の前をすり抜けるように一台のフォードが駆け抜けていった。接触しないぎりぎりで追い越して行き、バスの運転手の方が泡食ったらしく、過ぎた後でブレーキをかけた。
「ありゃあ、先生とこの車だろ」
「じゃあ大将のとこかね?」
 大地主で、東京でも知られた赤司の専属医が帝国医大出の医師であることは有名だ、生まれ故郷であるこの地に入院施設もある病院を建て、転地療法から軽井沢で過ごす皇族や華族方の変事に駆けつけている。だから忙しくすれ違ってもそれは二人の大事な弟のこととは限らない。
「……」
 青峰は黙って黄瀬の頭を叩いた。
「痛い!」
 二人が学校に着いたとき、弟からしょんぼりした面持ちで同級生の母親の具合がよくないのだ、と伝えられた。その同級生は、東京生まれで育ちが良く、誰よりも聡く、人だというのに弟のことを知っているような素振りをみせていたので二人は警戒していた。けれども人として、情の薄そうに育った弟の友人の心配をする姿は二人にとってたまらなかったのも確かである。
 
 
 
 
 

150207 なおと

 

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一月のおめでとうテキストだったのですが、書くのにひと月以上かかって、さらに調べるのに友人を付き合わせたりして、
結果「本にしたらいんじゃね?」と言われて「そうします」という風にしました。
拍手とこちらとで二種に分けてあげようかなって考えたのですが一月も終わってしまい、
それも出来なくなって考えた挙げ句、切りの良いところを。
もう書き上がっているので抜粋部分となります。
そんで書き足したり、直したりして本にする予定です。