黒バス_23

 
 
*赤黒オシです。
*なので黄瀬君が可哀想です。
*EXTRAGAME(5Q)を見て。
*空白の時間は貴重だもの。 
 
 
 

【PDF版】<<※作製は未定です>>

 
 
 
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報われない黄瀬君の捨て身の一件について。
 
 
 
 
 ヒーローの退場、そういうのってもっと感動的で、泥臭さとは無縁の、どこか漂白でもしたような清々しくも後光が差すような、白く明るい光に包まれて、伸びた影さえじんとなる。そんなものだろうと黄瀬は思っていた。
 どっこい現実は違う。
 はは、カッコ悪っ。
 鼻で嗤って一言で終われてしまう。後悔はしてない、汗だくで、呼吸するのもひと苦労、自力で歩くことも出来ない、誰かの吐息でノックアウトされてしまうくらいだ。途中退場の無様さは半端者の行き着く姿に他ならないということをつくづく噛みしめながら文字通りに引き摺られてコートを出る。
「カッコ悪いものか。ここまでよくやってくれた」
 まるで臣下にでも告げるような。
「あとは任せろ」
「……」
 オレはそのとき、完全に空っぽの状態で、よれよれになっていたけれど肩を貸してくれている存在の変化に気付いていた。いや、一歩一歩の確かさに、引き戻されていたというのが正しいかもしれない。
「涼太」
 かつての、それは警鐘ともつかない———。
 
「…黄瀬君」
 情けないけど後味は悪くないっスよ、強がりじゃない、そう言いたいのも彼は知っていると思う。
 視界が狭まって、指一本すら動かせないわけだから何をするにも聴覚は頼りだった。彼は自分以上の悔しさを滲ませた声を出す。どさりと荷物のように置かれた身体は重たいだけ、けれども彼の隣のこの空間は自分のためだけのもの、「ナイスガッツです」と、英雄のなり損ないだけど頭をめちゃくちゃに撫でられたような気分がした。幼い自分が目一杯褒められるという、そんな感情が胸に湧いて、少しだけ浮上する。先輩の言葉を背負ってはここで終了とはなんてヒネた思いもあった、けれども単純だ。単純だから気遣いのない振りで隣にいてくれるよりも別の嬉しいようなことをしてくれたらエナジー補給になってくれるんだけど。何のドーピングとか言われちゃうくらいっスよ。
「…っ、ど」
 口を開いて声を出そうとすれば喉が擦り切れそうだ、なんてしみったれた音だろう。
「〝ど〟?」
「喋らないで」呼吸に集中して。
 先生よりも厳しい声が飛んで来た、女子監督のやわらかな手はひんやりしててきぱきと優しかった。なに笑ってるの、とも彼女は呆れたように続けた。
 もう一声、もう一押し、はは、へっちゃらっス。オレ損な役回りだけど損なんてしてない。
「監督、少し彼を借ります」
 紫原のこともあってか気にしたらしい審判と監督が話しているのを涼しく凛とした声が遮った。
「あ?」
 がたん、という音が間近に聞こえてぞわりと肌が反応した。
「っ!!」う。
 いま身体を動かせないのが堪らなく腹立たしくて、もどかしい。いや、レフリータイムとかいらないし。交代ならさっさと、オレじゃなくてそっち、頼むから。
「…赤司君?」
 桃井っち、そこ捕まえてて、マジでお願いっス! 行かせちゃダメっスから!
「つか息してんのかよ、黄瀬」
 いまここじゃないっスよ、青峰っち! 確かに息絶え絶えデスケドね!
「おい、赤司」
 そうそう、止めて! 火神っち!
「すぐに戻る」
 使えねえ!
 相棒ならそれらしく食い下がってくれていいものを、あっさりスルーか、なんスかそれ。
「赤司君、テツ君に何の用でしょう?」
 桃井が心配そうに呟く。マジスかー、どっと身体が重たくなる。
「分からないわ」
 と、そこはかとなく知っていそうな返事をして相田監督(愛娘の方)は足をどうにか動かそうとするこちらをばちんと引っぱたく。「こら動かない」
 叫びたかった、ようよう握り締める拳に気付いた桃井が、大丈夫だよ、きーちゃん、と元気づけるように肩を叩いてくれる。逆らう力もないけれどなんかもう、躊躇っとけばよかった、異議ありすぎる、オレのエナジーチャージの源が、おめおめと見送るしかできないなんて。
 
 
 解放感というものがあるのかと思っていた、が、そんなものは欠片もない。ただほんの僅か、身体に馴染めないものが残っていた。自分の中で何かが足りていない。
「赤司君、何ですか?」
 黒子は手を引かれたまま問うてくる。出入り口寄りの死角、人目に付かぬよう息すらひそめ、ベンチからも離れさせるなんて、よほどのことなのかと真摯な態度で低く。効果的な一手を探るべくどうにかこちらの思惑を読み取ろうとするかのような必死さがあった、そして目を合わせるとぴくりと筋肉を緊張させる。彼はすぐに気付いたようだった。
「…君、は…」
 肩にかけたタオルが風に揺らぐ、相手が動く前に一気に攻める。抱き締めるか黙らせるかどちらを先にするかは考えはしなかったが、勢いに引きずり込んだ。
「っ!」
 言葉を続けさせない、なにしろ時間がない。
「????????!?」
 我慢という言葉はこの場において単なる記号に過ぎず、なにそれどんな新しい食品? くらいで終われるくらいだ。
「っ! !!!!! っ!」
 抗う力を押しつける力で相殺し、舌を絡ませて、唾液を貪る。
 存分に頭の芯が痺れそうになるくらいにで、向こうは息も出来ないようだった。舌の裏を舐められたり、耳の後ろを擽られるとふっと甘ったるい息を漏らす。そのまま力が抜けていき、膝が折れそうになるのを抱き締めるようにして支えた。
「っ…ふ…」
 満ちてくる、十分とは言えないが、脳から体内において覿面の効果だ。
 まだあともう少し。
 シャツを握る指先が震え、目がとろりとなる手前で離した。相手は勢い息をして、咳き込む。
「予想通りに下手でいてくれて嬉しいよ、テツヤ。あっちはまるで腰抜けのようだからな、僕もしっかり仕事が出来そうだ」
「〜〜…っ」
 もはや言葉も出ないらしい。赤面とも怒りとも呆然ともつかないような顔つきになっている。
「あいつに感謝すべきだろうな、お陰でお前をしっかりチャージ出来た」
「っ、チャ…、って…」
 チャージって自分は補充器ではないと言いたいらしい、口元を擦りながらじとっとこちらを睨め付ける。いい目だ、実に好ましい。
「さあ、行こう。前時代どもの頭に進化論を教え込んでやらないと」
 タオルを頭から被せてやると、火照った顔をごしごしと擦る。そこに染まった色を写し取るように。油断していた自分が悪い、そう分かっているのか黒子テツヤは赤司を責めたりはしなかった。それよりも驚く以前にこの場面で出現した意味を考えているのだろう、押し黙っている。
「とはいえ敦も苦戦中で、火神や大輝も出涸らしになるだろう、些か骨が折れそうだ」
「……」
 赤みが消え失せ霧が晴れたような表情、視線は赤司からその先、真っ直ぐにコートに注がれる。
「手伝えるな?」
「…もちろんです」
 それだけははっきりと言った。
「負けたくはありませんから」
 
 
 徹頭徹尾、緑間が邪魔だった。
 なんとなく広い視野を持てちゃう自分だからこそ、なのか、単に慣れだからなのか高尾だって分からない。とりあえずベンチサイドからの二人の姿は偉そうにほぼ仁王立ちで汗を拭く緑間がいることで見えず、少人数のオフィシャルも引っ込んでいるから観客席の影に覆われてしまっているとなるといることしか確認できないくらいだろう、観客席からだとこれも邪魔をするものがあり、対面側からだと恐らく逆光、フェンスも低く、視界が広く取られたバスケットコート、間隔もさほど離れていないというのに出入り口の死角なんて、やっぱりキセキは伊達じゃない。つかまあそもそもコートも十八人と審判が天高く、飛距離も遠く伸びていく白球を追ったり見詰めたりできる広さでもないんだけど。十人がぐるぐる身体をぶつけ合いながら走り回るのである。…なんて汗臭い。
 黄瀬の思いがけない退場で試合は一時中断、しかも赤司がベンチから離れたこともあって客席はざわついている。会場の不安がそのまま落ち着かない音となる。大丈夫か、ヤバイ。無理だったんじゃないか、ぷつぷつと刺していき、ベンチの空気に無責任に穴を開けていく。
「言われまくってるっすねー」
 後半に入ってからは言いたい放題だ。
「オレだって言いたかったわ」ったく。
 雑音など聞いていないような顔で日向は突っ返すと立ち上がる。彼が気にするのは審判と話す監督、ではなく引っ込んでいるオフィシャルの方のようだった。
「でも、負けんなって重たい期待を寄越してるんだから同じだ」
 スコアボードを見詰める、張り詰めた緊張感の中、適度な熱さを保ちながら視野が狭まるでもなく、黒子のたちの方まで目を遣れる冷静さに流石は主将だと思った。
「……」
 黄瀬が救護レベルかの判断をしているのだろう、審判が時計を確認し、顔を上げた。
「…てか、みどちん、邪魔なんだけど」
「む? 何がだ?」
 長考を中断されて緑間はむっとした口調で答えた。
「黒ちん達、見えなかったじゃん」
 責めるように言われて緑間は眼鏡を押し上げつつ後ろを振り向いた。先に赤司がやって来る。
「お。戻ってきた」
 監督と審判の話も終わったようだ、選手交代、試合は再開される。
「……」
 なんというかやや遅れて戻ってきている黒子はちょっと歩き方がぎこちない、赤司が使っていたタオルを手に無表情がそのまま凝り固まったようになっている。それは漲る闘志によるものなのかプレッシャーなのか、高めテンションを胸に秘めてのものなのか。
「……」
 赤司に比べたらそりゃ存在感なんて薄いもいいところだろう、何とはなしに高尾はそれを見、あ、と声を上げてしまう。声に気付いためいめいが黒子を振り返った。
「あ、転けた」
「転けたな」
 緑間の声はラッキーアイテムの所持を疎かにするからこうなる、と主張していた。
「テツのデフォルトなのか?」
「赤司は何言ったんだ?」
「した方でしょー…」
 不機嫌そうな紫原の発言に一同は納得したような顔つきになる。高尾も同意であるからそれでも腑に落ちない様子の若松に向かって手を振るジェスチャーをしてみせる。
「そこは知らない方が平和かと」
 高尾が言うのを火神が頷く。
「だよな」
 彼は何があろうと黒子自身が処理するものだからと決めているようで、それ以上は続けない。女子に世話されている黄瀬が動けないのに藻掻くようにしては叱咤されていた。多くの観客達はチームの行く末を案じ、途中退場した選手の無念さを思っているだろう、でもなんか違う。
「行くぞ」
 赤司は無駄なことは一切言わず、先陣を切るようにコートに足を踏み入れる。
 再開のホイッスルが鳴らされた。
「…赤司、なんかツヤツヤしてね?」
 赤司の目は明らかに鋭く厳しいだろうに、背中を見ていると妙にリラックスしているような雰囲気を感じさせる。会場の興奮、観客席はハラハラと願いと、期待と、望まない結果の不安を抱き、混沌としている。そんな中に彼だけが異なる時間枠に佇んでいるかのようだ。
「イキイキ?」
 ベンチで気付くのだから同じチームの選手などは顕著に知れるだろう。
———トン…ッ
「……」
 と、相手の四番の手を離れたボールがバウンドする。ボールや主導権ではない、相手の時間を冷酷に剥ぎ取るような一閃だった。高尾はそれをきちんと目で捕らえていたのかも自信がない。
 黒子はそうですか、ともそうですね、とも言わなかった。
 
 
 
 
 

150830 なおと

 
 

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ギャグです。
だって戻ったら戻ったでやりそうだし。
かつて火神にハサミだったくらいなので、そう簡単には己を手懐けるなんて無理じゃね?って。
黄瀬君が不在だとオチにならない会話になるんだなあと学びました。ヤラレ役って重要だ…。