黒バス_12

  
 拍手用にしようかと思ってましたが、こちらの方が手っ取り早いので。
 だいたい二年時の二学期の中間とかくらいの頃を想定しました。
 WC前です。
 リコちゃんテストも容赦なしだからね。
 
 
 

【PDF版】<<※作製は未定です>>

 
 

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「赤ちーん」
 2mほどの長身の紫原敦が背後に立つと、大抵背後に壁が、と見えてしまう。それが両手を広げて被さってきたとなるともう襲うとしか思えない。紫原だけでなく、長身と行動することに慣れたので威圧感など抱いたことは殆どなかったが、改めて傍目から見るとあれは誤解を生むな、と氷室辰也は思う。事実、彼は子供に恐れられるか登られる。
「送ってくれた飴、アレ、全部旨かったんだけどー」
 赤司征十郎はボールを持ったまま表情も変えずに、そうか、とだけ応える。なんというか熊にじゃれつかれているような格好だ、その横で同感です、と激しく黒子テツヤが頭を縦に振っていた。彼は、高校生のごく平均的な身長であるのに二人の近くにいるとどうしてかマスコットかのように小さく映ってならなかった。
「……」
 物憂く口を開きかけたところで紫原は首を僅かに傾げる。ひょいと黒子を見遣るとゆらりと巨躯を動かし、そちらの背後に移動してのしかかる。
「? 紫原くん?」
 抱き心地を確かめるように二度三度腕を動かしてから再開とばかりに口を開き直す。黒子は嫌がりもせずにホールディングされているから潰さない加減をされているのだろう。
「ぱりっとしてて、あとあとー」
「同梱のチョコレートも最高でした!」
「話が繋がってるし…」
 火神大我は赤司に群がって菓子の素晴らしさを熱く語っている二人を眺めて呟く。氷室は苦笑した。
「アツシに届いたメール見たよ、女性だとデリカシーがないと怒られてしまうから二人に送ることにしたって」
 火神は靴紐を直しながら、あー。かもな、と返した。
「黒子がお裾分けっつって持ってきたとき、カントクが震えてたわ。あれっぽっちで太るとかねーわ」女ってわかんねー。
「タイガ、それ絶対女子の前で言わない方がいいよ」
「なんで」遅ぇよ。
 氷室は薄く笑みを浮かべながらやっちゃったのかコイツと口には出さないが思っていた、そう遠からず女性絡みで苦労することになるだろう、バスケだけではなく女性に対するマナーも教えておけば良かった。
「でも助かったよ、タイガ達が来てくれて」
「テスト中だけどな」
 さらっと弟分は言って伸びをする。
「え?」
 聞かされていなかったからぎょっとする、いや、そこまで気にしなかった。氷室の学校は前日で終わっていたのだ。終わった足で紫原と東京までやってきた、陽泉を運営する教会主催の交歓会のためだ。関連施設間の交流を目的としており、バザーや合同演奏会なんかもしたりするらしい。毎度生徒が駆り出されて何かをするのだが、今回はバスケ部にその務めが回ってきていたようで、氷室が呼ばれたときは既に断れない状況が用意されていた。監督命令で引っ張り出されたはいいが、面倒がる紫原を宥めつつ、氷室は途方に暮れかかった、別にスピーチを望まれているわけではない。手っ取り早いのが試合だ、しかし試合をしようにも人数が足りなかった。パワーバランスが取れるくらいのメンバー構成でないと試合にはならない、見るのも興醒めという交歓会にあるまじき結果となってしまう。となると心証宜しくない。紫原は子供相手にシュートでも教えたらいいとすべてをこちらに投げやる気しかなく、長身を生かしてその子供相手になってやれば問題はないだろうにと溜息を吐いた。
「気にすんなって。ウチは野試合禁止とかねーし」
 そっちではない。
 駄目で元々で助っ人に来てくれないかと火神を誘ってみたら黒子だけではなく、赤司まで来ることになったのはラッキーだ。神はいるところにはいるものだ、それは思う。
「勉強はしてくれよ?」つまらないことで再戦が消えるのは御免だ。
 ならばこれはバスケの神の計らいというやつなのかもしれない、相手は宙を見上げるようにして笑う。
「終わったらな」カントク怖ェし。
 そして、無表情に続ける。
「つーか、すでに吐きそうなほどやらされてる」
 ふっと遠くを見遣るような目に抱えたストレスがくっきり見える。勉強で息を詰まらせるよりもバスケがしたい、その気持ちは氷室も分からなくはなかった。
「赤司も?」
「知らねーけど、東京来てるくらいだからヘーキじゃね?」
 大いにあり得るが、彼なら問題ないだろう。
「氷室さん、試合の参加者って聞いてますか?」
 黒子が紫原を背負ったような格好のまま振り返った。離れない紫原などものともせず、顔にはさほど現れ出ていないが、うきうきしたような様子が滲み出ている。途中で抜けたが説明もあったし、式次第のようなものにも目を通してある、初心者から経験者の小学生有志だそうだよと答えた。そして男女混合だ。一緒に聞いていたはずなのに紫原は露骨に嫌そうな顔をする。
「指導するようなものか」
「まあ、そうなるかな。どうしたってフェアには持ち込めないさ。施設の子達だろうから、全力でっていうのはナシだよ、アツシ」潰すなど言語道断だ。
「…ふーん」
 赤司は気のない返事を寄越す紫原を見、腕を組む。居るのは確かに有り難いが、氷室にはどうして居るのかやっぱり不思議だ。とはいえ詮索する気もないのだが。
「赤司くん、パスワークに徹して貰えますか?」
 黒子が継ぐように言う。
「……」
 確かに子供達を置いてきぼりに本気を出すのは拙い。とはいえ、手を抜きすぎてもいけない、心証的に決して良くない結果をもたらすのは経験上よく解っている。
「あと、ハンデは置き石二十くらいです」
「容赦ないな」
 平坦というか、声からも立ち居からして体温を感じさせない。あの洛山で一年時より主将を難なく張ることのできる選手で、その能力はほぼ万能とも言える。カリスマと言ってもいいのだろう、態度といい、己が己であることに微塵の疑問や葛藤など抱きそうもないのが見て取れていた。ただ、感情の起伏は乏しい。氷室に分かるのは、赤司は不満ではないらしいということくらいだ。
「アツシ相手にはメンバーを三人くらい投入しよう」
「えー」
「火神くんはボクが鎮火させるようにするので」
「おい」
 チャリティーくらいオレだって出たことあるし、と心外だという顔をしてみせる。ハロウィンは菓子を独り占めするか、タフィーを放り投げ、クリスマスは楽譜を持っていただけというのを紫原だって知っている(他でもなく氷室がにこやかにバラしたから)。誰相手でも任せろカモンとか言おうものならボールをぶつけてやるのも吝かではない。
「タイガはすぐ熱くなるからな」
 火神はるせーな、と吐き捨て、指先でボールを回しながら
「…あと『オキイシニジュウ』って何だよ?」
 訊きにくそうに問う。氷室もそう思っていたので丁度良い。
「予め石を置いて陣を取りやすいようにする囲碁のハンデです。赤司くんなら不可侵領域くらいは作ってくれますよね?」
「身動きも取れないくらいだ」
 カリスマに対し、押しの強い言い方だった。赤司も素っ気ないがまんざらでもない顔をしている。見た目では分かり難いがあれこれ口を出すといい、黒子は思う以上に乗り気だ。だって、みんなにパス通して貰ったりシュートしたりするの楽しんで欲しいじゃないですか、と拳を握る。意外なようにも思えたが、なんだか微笑ましかった、その頭に上に顎を乗せた紫原は不愉快そうな顔をしていたが。
「達成感には中毒性があるそうですし」
「お前はバスケ普及の人間なのか?」
「勝たなきゃ面白くないじゃーん」
「紫原くん、それ以前ですよ」
「そなの?」めんどくさー。
 紫原には早くも来るのではなかったという後悔の色が見えて始めていた、黒子とは合わないとは言うが、妙に素直だったりすることもあるから本心ではないのだろう。
「……」
 赤司は一人達観したような顔で居る。ポーカーフェイスで腹の中はあらゆることを考えていそうだなと氷室は思った、いくら都合があったからとはいえこんな遊びもならない場所に引っ張り出されて手ぶらで帰るような人間とは思えない。
「むろちん、時間じゃないのー?」
「講演が長引いてそうだな」
 時計を見上げながら赤司が応えた、紫原が赤司を見てこっくりと頷く。
「すんごい話の長いシスターいるんだよね、帰ったら叱られたことあったよー」
「アツシは菓子のこともあって目をつけられているんだよ、我慢も足りないし」
 図星なのか、聞き流しているのか紫原は無言でぽりぽりとスティック菓子を食べている。火神はふうんと興味もなさそうに呟くとゴールに向かいドリブルして行った。
「タツヤ、時間まで1on1…あ。赤司、やろーぜ」
「断る」
 声こそ穏やかだがにべもない。
 それより頭の上にくず落とさないで下さいよ、と黒子は紫原を窘めている。まったく動じない紫原は、これ旨いよ、と黒子の鼻先に菓子を突き出していた。分かり合いたいのはそこなのか、アツシ。
「でもあんなに貰っていいんですか」もう返せませんけど。
 結局食べている黒子が口をもぐもぐさせながら言う。赤司からの菓子の話に戻したらしい。ここが黒子の律儀さなのだろう、氷室はフェンスの向こうの講堂を振り返る。時折風に声の反響じみたものが乗るから講義は続いているのが分かる、中の空気を抜かないようにと誰もが気を張っているような静謐さが漂ってくるような気がした。
「オレもー」
 これでナシとか言われたら消化不良そのものだ、氷室は火神の待つゴールに向かう。
「ああ。返すのは違うことで頼みたい」
 キセキの三人は暢気に話している、赤司の声が聞こえていた。
「順調にいけば三年後の年末」
 三年とは気が長いものだと思った。と、急に赤司の声色が変わる。それはそれとして、重要なのは次だというような力の入り方だ。
「紫原、あまり黒子に触るな」
 びしりと命令口調そのもので、痺れを切らしたような苛立ちすら含んでいた、氷室は火神からのパスを受けたまま思わず振り返る。
「えー」
 目の前の火神とセンターサークルの紫原から同時に声が上がった。
「くろちん、わたあめだから」
「あめじゃありません」
「わたあめだよ〜、肩のとこふわふわ〜」
 赤司はこちらに背を向けていたので表情が見えなかった、紫原は分かる、不満げなのと、黒子は飴とは承服しかねると言いたげだ。
「そういう筋肉を作ったんだろう?」パスコントロールが重要だからな。
 言われて黒子は紫原の腕に覆われた自身の肩を見た。
「作ったというか、なってきたっていうか…」
「だから駄目だ、肩に影響したらどうする」
 腕を腰に当てて指導教官みたいだ、赤司は表面にはまるで出さずに苦々しく思っていたらしい。
「しないし」
「駄目だ、テツヤに触るな」
「……」
 何だかなあれは。
「何だよ、タツヤ」
 そんな黒子の相棒はまるで無頓着だ、何があったのだと寧ろ当惑げに眉を持ち上げて首を掻いている。当たり前すぎると小さな変化に気付けないということがある、それは判るが察しが悪いというか、鈍さは本当に変わらない。ああ、うん、と生返事をしてから別に告げるべきでもないなと判断する。
「…赤司って」
「ん?」
「割と分かり易いんだな」
「は?」
 火神が首を傾げたところでぞろぞろと講堂から人が出てくるのがフェンスの向こうに見えた。
 
 
 
 
  

141224 なおと

 
  
  
  

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クリスマスとかなにそれ。

 赤司さんは当たり前のように定期的に東京に通ってきます。
 榮太郎の取り扱い店舗と季節が限定の苺の飴ちゃんがめちゃくちゃ旨いと聞いて。
 火神くんも慣れました。なので室ちんが困惑してる。

そして馬好きのひとは有馬に向かってます(えっ…)。