黒バス_21

 
 
 
※赤黒です。
※帝光編はとにかく飛ばしましたね、アニメも(別の媒体で補完しろということか)。
※赤司さんはめっさブレない大した人ですが、代わりに他人を戸惑わせまくってるよなあと。
※どうでもいいけど折り合いつけたいような黒子さんを作ってみた。
※作れているかどうかは別として。
 
 
 

【PDF版】<<※作製は未定です>>

 
 
 
<お願い>
※記載内の無断転載、無断コピー、データ転用、改変、再配布等はご遠慮下さい、お願いします。
 
 
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僕と彼のパラドックスルール
 – Don’t touch our paradox
 
 
 
 突如として痴話喧嘩を持ち込まれた誠凛高校バスケ部はミニゲームの真っ最中、ホイッスルを持ったまま相田リコ監督はとっても迷惑です、という顔をしていた。勿論、黒子だってボールを持ったままコート内にスローインできずに困っているし、巻き込まれている火神なんて動揺してきょときょとと首が同じ運動しかしていない。
「ちょ、オレ関係な」
 と、土足でコート内に踏み込んでいる青峰を見る。彼のいるところは青峰と桃井の間の、出来れば最も避けたい位置にある。
「いーって。行こうぜ、火神」
 いやそれは駄目だろう。プレイを中断させられたまま一同は窺うようにカントクを見、桃井を見る。可哀想に冷たくあしらわれた桃井は肩を怒らせ、ぐっと両の手に拳を握っている。
「……」
 桃井が青峰と喧嘩し、傷付いて落ち込んだときは黒子に慰められに来る。そういう過去があった、どっこい、今回は違う、まず青峰が来た、追い掛けるように桃井が来た、そうして喧嘩の続きらしいことを始めた。それこそ幼馴染みならではの入り込める隙のない、いやもうそれ以上に電光石火ともいえる展開に理由も分からず押しかけられた方はあんぐりするしかない。
 苛ついた顔で女子監督が口を開こうとしたところで、俯いてぷるぷると唇をわななかせていた桃井が叫ぶように言う、堪忍袋の緒が切れたどころじゃない。
「大ちゃんが言わないからじゃない!」
 どかん、とそれこそ噴火したように声は体育館内に振動を持って響く。
「どうしてあんなこと言えるの? そうだよ、知らないよ、私、勝手に分かったような気になってるよ、けど…、大ちゃんがほんとに分かって欲しいなら言ってくれなきゃ伝わらないんだよ!」
 対する相手は蛙の面に何とやらというようで、火神は石像のようになっていた。
「んだよ、さつき。お前、セー…」
 言い終わらぬうちに黒子の渾身のイグナイトパスが顔面に直撃し、繰り出したのちに黒子はおやと首を傾げた。黒子が持っていたはずのボールはというとてーんと転がって二号のオモチャになりかかっている。
「カントク」
 いいタイミングでボールを放った相手は邪魔されてご立腹中なはずの相田監督だ、状況というものの判断が出来なくなった誰もがやっぱり固まってしまい、黒子は続けて名指しされ、びくりと直立不動になった。
「…誰があの子のケアしてあげるの?」
「えっ?」あ。
 見れば桃井は言うだけ言って、駆け出してしまっている。追って欲しそうな背中は間違いなく追わなければならないのだろう。
「黒子君は彼女を送っていってあげなさい」
「あ、ハイ」
 遙か高みから言われたような気分だ、声に怒りとか咎めとか感じたりはしないけれどどうしてかすみません、と謝ってしまいそうになる。
「丁度良いから話をしましょう、青峰君。お姉さんが教育し直してあげる」
「…は?」
 どこからともなく疑問符があがる。カントクはくるりと男どもを見渡し、宣言する。
「言っておくけどね! 二人の仲がどうなろうが知ったこっちゃないわ! だからあの小娘のためじゃない」
———アン!
 ここで「そう、その意気!」とでも見事な味方ぶりをアピールするかのように二号が声を上げる。
「けど、分かるのよ…」
 カントクは腕を組むと重々しく頷く。
「女敵に回して天下取れると思うな? って」
 体育館の温度がふいに下がったような気配。声はそこそこに朗らかで、そして彼女は落ち着き払っている。冷徹なくらいに。
「身勝手な小僧どものお世話に明け暮れて花の女子高生ライフを潰すなんて、相当の気合いが要るんだから」
 誰も何も言わなかった、正しくは言えなかった。
「そこの調子乗っちゃってるの、バスケ取ったらただのクズなんだから、少しは自覚して貰わないと」
 容赦なくも辛辣な言葉と共にとんでもない圧力が背後から迫ってくるのを逃げるかのように黒子は走って桃井を追い掛ける。『調子に乗っちゃってる』のは間違いなく青峰だろう、迫力に気圧されて言い返せなくなっているらしい。というか、女子監督の怒りに男子の勝算などない。力業で押し切ろうとしても一言で切り刻まれてしまうのがオチだ。
 
 
 追ってきた黒子に桃井さつきは寂しげに微笑んだ。ぽんと胸に飛び込んで泣きつけないほど彼女は深く傷付いていた、自分が何を言ったところで『ありがとう、テツくんはやさしいね』と、それだけで終わってしまうのだろう、彼女にいま必要なのは黒子の慰めではないのは明らかで、乙女心は複雑なのだ。黒子は隣をゆっくりと歩くだけにして彼女を駅まで送った。
「あ、雨…」
 ぱらぱらと音を立てて滴がアスファルトに染みを作っていく。
「テツくん、傘は?」
 しおれたままずぶ濡れで家路を辿る桃井の方が心配だ。こういうとき、少女小説のようにヒーローの如く駆けつけるぶすくれた顔の幼馴染みの誰かをちらりと想像ないでもなかったが、あまりにもはかない夢過ぎるし、そこまでの熱意を彼からは感じられそうもなかったので黒子は息を吐くしかない。しかも桃井は鞄から折りたたみ傘を取り出す。
「これ…」
 黒子は首を横に振った。
「大丈夫です」これくらいなら。
 バカバカしいことを考えたものだと自分自身に引いてしまいそうになる。
「気を付けてね」
「桃井さんこそ」
 改札の中に消えるまでを黒子は見送り、雨の中、走り出す。本を読んで女性心理をほんの少しだけ知った気になって、いざとなったら傷付いて小さくなった肩を眺めているだけでただぼんやりする。あのときのように鷹揚な気持ちで頭を撫でることも、気の利いたことも出てこない己が情けなかった。去年は少女みたいに見えたのに、今年は女性に思えたなんて言い訳にしかならないだろうが迂闊に触れられないのは確かだった。彼との一年がそう変えたのか? だがその三百六十五日で足らずで見違えてしまう女性というものについて青峰はやはり教えられるべきだろう、自分もだけれど。
 風景は均一な濃い青色の中に沈んでいた。時間は六時前、今日は体育館での練習を早めに切り上げてミーティングの予定だったし、それもぶち壊れてしまったから今現在の誠凛高校バスケ部のスケジュールがさっぱり分からない。部室か? いや視聴覚室を使うはずでは? だが時間がずれてしまった、そして練習を抜け出しただけのような格好のなのだからポケットを叩いてみても携帯電話なんて持っているはずがない。
「……」
 灰色の空と灯る街灯とを見て黒子は、既視感を覚える。
 頭を振って軽いランニングのつもりで脇を締め、足を蹴り出し進んでいった、苦い記憶を振り払うように。
———ああ、嫌だな。
 小粒は頭髪を濡らし、頬を打ち、シャツに染みこむ。
———あんなこと、どうして思い出したりするのだろう。
 青峰はあの時とはまるで違う表情だったし、桃井も涙を流したことで悲しんでいるけれど気持ちは落ち着いたようだった。状況だって違う。
「戻りました」
———それに、何よりここは帝光ではないし、赤司はいない。
 辿り着いた体育館は静まり返っており、ドアにはぺらりとメモが貼り付けられていた。
「……」
 黒子は呼吸を整えながらメモを剥がして読む。
『黒子へ』
 筆跡は急いでいるようだが読みやすい。
『悪い、先に行く。戸締まりを済ませたら追って火神の家に来てくれ』
 伊月からだった、恐らく何も持たなかった後輩に対し、気を利かせて残してくれたのだろう。どこからかぱたぱたと固い何かを打ち付けるような音が聞こえる。青峰相手のカントクの説教は済んだのかと黒子は滴を拭いながらなんとはなしに中を覗いてみる。
「…誰かいますか?」
 明かりもなく、ボール一つも残されていない。
 当たり前の風景に何故か胸がちくりと痛んだ。
 音はどうやら配水管らしい、しばらく見てから気付いた。樋を伝って集まった雨水が流れる、活動を止め、静かになったから分かるのだ。また、どうして火神の家なのかもまあ通例というか納得もする、なのに黒子は小さく失望に似た思いを抱えている。
「何を期待していたんでしょうね…」
 探したってあの姿が見える筈などない。
 勝利だけを目先に据えているぶん、彼の目は惑わされない確かさがあった。他者に畏怖を抱かせ、黒子自身も怯み、戸惑い覚えた一方で邪心がないその無残さは誰より公平にも思えた。『絶対に勝つ』と言われれば疑問も抱かずそうだと信じられ、『かもしれない』という不安など微塵も感じなかった。こんなのは違うと否定し続けた勝ちに麻痺し、驕っていたのは自分だった。
 そんな自分と向き合い、清算することから始めようと誠凛のバスケ部に入った。特徴のない学校の体育館だけどここは自分のホームだ、思いも寄らない来客があったりするけれど頼もしいカントクがいて、チームメイトがいる。
———…だった?
 微かだが頭に響く声が消えない。
「……」
 無力さに打ち拉がれ、頭はグラグラ揺れていた。
 赤司はセンターサークルのところで佇んでおり、その鋭い双眸はすべての景色を通過し、どこか違う未来でも見、こちらを視界に入れるくらいのことしかしてはいなかったような気がする。タオルを手渡しながら告げられた言葉の数々は気持ちを重たくしていたけど彼が待っているだろう事を黒子は解っていた。帰らず、後になって報告に来るのを玉座の王よろしく待つのではなく、コートで、家臣が朗報を得られずにくしゃくしゃになりそうになっているのを、ただ眺める。そうか、と受け止めた結果に失望もせず、責めることもしない。
「赤司、くん…」
 どうしてだろう、ひどく懐かしく思うと同時に腑に落ちない点に気付いたりする。
 もう一人の人格だという彼が、なぜ黒子を待っていたのか、何も言わずとも、本当は達観じみた境地の中にあって、先が見えていた。黒子の報告を聞くより答えは分かり切っていたから彼はそこにいなくてもよかった。待つこともないし、寧ろ、紙切れ一枚であるべきだった。戸締まりをするようにと言付けて帰って、翌日の朝練の時にでも無表情に黒子からの報告を受けるのが正しかったように思えてならない。
「……」
 雨脚の強まった音がする。記憶の底に沈む。
「…黒子?」
 呼ばれて黒子はぼんやりと振り返った。
「どうしたんだ? まるでシャワーでも被ったような濡れ方だが」
「赤司君」
「誠凛の主将と監督はどこだろうか? 確認したいことがあってついでに寄ったのだけど」
 言いながら制服姿の赤司は黒子に近付いていき、鞄の中から取り出したタオルを黒子に被せる。突然に現実に引き戻されたが、頭がうまく働かなくてされるがままだ。相手は冷えてるじゃないか、と呟くと息を吐いて水気を拭う。
「あ…、ちょっとあって、みんなは火神君の家にいます」
「それは朗報だな」
 誰の姿もないと知れると憚ることなく手を引き寄せ、目を合わせる。
「『残念なことに』」
 黒子は正すべく言い返す。確かに、と相手はくすりと笑った。
「でもお前には会えた」
「ボクも、会いたかったです」
 明かりもなく、室内は暗くて相手の表情は近付かなければよく見えない。赤司の手の平は真っ直ぐに伸びてくる。
「君の目に、今のボクはどんな風に映っているんでしょうか」
 黒子の発した言葉に相手はぴたりと動きを止める。力を失ったかのように赤司の手が落ちた。
「…赤司君」
「僕に訊くのかい?」
 ここに自分があるのにもう一人の存在に尋ねるとは興醒めだとでも言いたげだ。黒子は首を横に振る、一途で冷徹な王の意見は至言であり、自分を貫くに決まっている。
「いいえ」
 身勝手にも彼が変わってしまうと以前の彼の姿を求め続け、いざ戻ると思い出しては探してしまう。黒子が知る赤司の多くは現在の『戻った』と思われる彼の姿なのだけれど、勝ちに拘泥し、物騒な発言をさらりと繰り出したあの赤司も近寄りがたく、同意しかねる彼の一面であるというだけで黒子は嫌いではなかった。
 赤司は瞬きをするとぷいと横を向き、腕を組んで言う。
「お前は諦めなくていい。もう一人のオレに会いたければそのうち勝手に這い上がってくることもあるかも知れない」
 己の身の内にある別人格について虎視眈々と転覆を狙い牙を磨いているといった言い方をするなどどこまでも赤司は揺るがなく赤司だ。だからこそどちらも気になってしまうのだが、悔しいから言わない。
「いいんです、キミたちは一人で手一杯ですから」
「……」
「これからボクもみんなと合流しますし、部室戻りますけど赤司君、カントクと連絡取りますか?」
 外が一段と暗くなっている、黒子は開いている小窓を閉めながら問う。雨が吹き込んでいた。
「強力なバリアを張っておいてよく言う…」
「え?」
 雨水の音でよく聞こえなかった。モップを手にしたまま赤司を見る。
「いや。テツヤはオレには勿体ないと言っただけだ」
「…赤司君?」
 ふいに道を過った感覚がした。
 彼はどっちだ?
「……」
 彼の全体を写し、足下から肩、腕、表情、何よりも目をその奥を見詰めてしまう。確かめようとして、吐息が触れるほど近くなり、唇が触れる。
「からかうのやめてくれませんか」
「妬かないほどの余裕なんてないから仕方ない」
 ぐうの音もない。が、平然と開き直るのもどうかと思う。黒子は動悸を誤魔化すように襟元を拭きながらモップを引き連れ、先に歩き出す、何も言わずついてくる赤司の足音は雨だれのようにゆったりとではあるが、どこか軽やかにさえも聞こえた。
 
 
 
 
 
 

150622 なおと

 
 
 
 
 

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赤司さんはいつだって黒子っちには本気です。真剣です。
分裂するほどの自己の複雑さを理解していながらあんま気にしてないと思います。
だからメーワクが降りかかるのは黒子っちで、でも迎え撃つ侠気が彼にはあるので莫問題。

あと、桃井ちゃんが幸せになるには周囲が大人にならないと駄目だろうって考えます。