黒バス_20

 
 
※赤司さん目線の方がどうも考えやすいようです。
※彼らの二年目のインハイってどういう展開とかだったりしたんだろうなって思います。でも原作でも明らかにしていないので。
※黒子っちが悔しがったのはわかる、うん。
※チーム高校生代表、アメリカンヤンキー相手に頑張って欲しいです。
 
 
 

【PDF版】<<※作製は未定です>>

 
 
 
<お願い>
※記載内の無断転載、無断コピー、データ転用、改変、再配布等はご遠慮下さい、お願いします。
 
———++———++———++———++———++———++———++———++———++———++———++———
 
 
 
 
 
 Outfight another
 
 
 
 再戦を誓った誠凛高校が敗退した。またおもしろそうなチームと目していたし、戦って勝つのは洛山であると信じていただけに赤司はやや不機嫌だった。黒子からのメールは『力不足です』の一言で、素っ気なさに『不本意そうな』と想像でしかそのさまを補うことが出来ない。こちらの方がと言いたい。赤司は頭では納得しているのにそれでも諦めきれないものが残って消せずに一人、廊下のベンチに座って気持ちを整えていた。
 誠凛高校の使用するロッカールームは知っている。黒子からのメールを見、すぐさまやって来たのだ、自分たちに勝っておいてここで負けるとは。敗北というものを教えただけでなく、雪辱が果たせない焦れったさを覚えさせたのも彼というわけだ。ノックをしようとして話し声がするので止めた。女子監督の声は張りがあり、感傷を引きずっていない強さがあった。ミーティング中なのだろう、ドアから少し離れたベンチで待つことにする。携帯電話を両手で挟むように持ち、目を閉じるとどこからともなく話し声が伝わってくる、内容こそ分からない、あちこちから音を引っ張ってきて回しているといったようだ、室内からもやや籠もりがちに音声らしきものが聞こえた。関わりがないから聞き流している。試合前の高揚感なんてない、いつもと同じだ、頭は冷えている。冴えていないだけだ。
 再び黙ってドアを見遣る。
 外側の通路を救急車が通ったとしても大会には無関係であるように、壁で仕切られ、ドアで蓋をされた室内には廊下の雑音は影響しない。ドアの向こうは世界を違えた空間のようなものだ、さわさわと気配がして、そして無音。
「考えてみてください」じゃあ失礼しました。
 やがてドアから出てきたのは監督ではなく、ジャージを抱えた制服姿の女子生徒だった。
「……」
 女子マネージャーなんて聞いてない。
 ペンと小さなノートを手にぶつぶつ呟きながらジャージ姿の少女は赤司の前を通り過ぎ、同じベンチの端に座る。空調の風にか思い出したようにジャージを羽織る。ジャージには知っている学校名が入っている、愛知県代表の女子校だ。女子のチームがどうして誠凛に?
「…うん」
 少女は決然とした面持ちで携帯電話を取り出すとどこかへかメッセージを送信する。ああ、とすぐに察しがついた。
 どこの学校にも他校の試合内容を録画記録する係がいる、桃井さつきのように情報を集めておくのだ。まさか女子チームから男子チームにとはと思うが、学校によっては男女の合同練習するところもあるし、参考にはなるだろう。
「インサイドがやっぱり弱かった。でも誠凛は、五番が…」
 それにしても、敗戦直後のチームに突撃とは強心臓の持ち主らしい。
「……」
 少女はひと頻りああでもないこうでもない、とノートに何かを書き込みながら
「相田監督はどうしてあそこで十一番を使ったのか…」
 唸ってショートヘアを掻き毟る。
「中学時代から公式試合慣れしてて、経験量に助けられてるわけか」
 納得したように頷く。彼女は誠凛の試合を見ており、多分に感想と意見があるらしい。彼女の行動について赤司は意見を持たないが、それは聞いてみたい。黙って廊下のリノリウムを見詰めながら相手の出方を待つことにした。
「ダメ」
 やがて紙にペン先を走らせる音がする。
「流れはどうしたって白だった。地味でいい人って感じだけど、誰が不調そうでもないのに、やっぱりダメ」
 誠凛高校の十一番を背負う黒子は彼女の采配によれば、NGらしい。好印象ではあるようだが選手としてはダメが出たぞ、黒子、と腹の中で思う。赤司は今日の誠凛の試合を全て見てはいない。一瞥しただけで違う色が足されたな、と感じ、序盤からの仕掛け方は相変わらずだとも思った。いや、レギュラーのセンターが入れ替わったからなのか、それとも慣れなのかスピード感が増し、アウトサイドの強化も見て取れ、危うくもあるが勝ち上がってくるだろう予測はしていたのだ。
 少女はこれをこうして、ここで十番をフリーにするべき、と何かを書き散らすと息を吐く。
「『キセキの六人目』ってあんな人だとは思わなかったな…」
 感慨にふけるような呟きに、失望とも異なる種の気持ちの欠片が見え隠れする。
「…ほう」
 掌の中に置いた携帯電話が震えていた。発信元は実渕玲央。
「軍師気取りか」
「えっ?」
 と、少女は顔を上げて赤司に気付くと「洛山の!」と小さな叫び声を上げた。つい前まで『キセキの』と付いた接頭語は呆気なく剥落し、誰もが所属する学校名を冠することとなった、この変化は些細であるようで大きく、もたらされたのは———。
「敵チームであること以外、誠凛の彼らについて何の権限も持たないが、少しいいだろうか」
「あ、いえ、いくらでもどうぞ! わた、私、誠凛高校の相田監督に憧れています。いずれコーチングを学びたくて」
 赤司は開きそうもないドアを振り返り、そう、と応える。
「その君が横線で消した十一番だが」
「確かにいたらと思う選手ですが、あのチームには絶対に必要でもないと思います。良くも悪くもやさしいし。誠凛にはもっと質の良い選手がいます」
 彼女は黒子に対して評価が低いようで、無感情に切り捨てる。その物言いは緑間とどこか似てもいた。緊張で強張っているとはいえ、赤司を見詰め返す瞳も利発そうな光が宿っている。
「それに…」
 考えるように言葉を切り、何かを打ち消すように頭を横に振った。
「メンタルも弱そうというか、信用しづらいというか、…そういうタイプです」
 口調は慎重そうだが冷淡に続け、怖じけることなく赤司を見返す。
「……」
 赤司は少し黙る。違和感を覚えた。言葉に嘘はないようだが耳にざらついた感触を残し、空疎な音だけの響きにしかならず、ほぼ直感的に脳が反応する。
 解体し、再構築する。ゆっくりと行う呼吸一回分、呟きは意図せず漏れ出た。
「なるほど」
 五分で分かりようもないものを無理に飲み込んで、いかにも感覚的とも受け取れるが、特性を十分に理解しての判断だろう。言い換えれば、彼女は黒子の異質さを買っており、あわよくば自分の思い描くチームにコピーできないか考えている。取り入れたい、と。つまりはもくろみの裏返しだ。疑問として口にすることで遠回しに女子監督を否定しているのだろう。自分ならばそのような采配はしないと、彼女は断言した。この場合、それが正しいのかどうかは赤司の知るところではないが、少なくとも膝を打つということはないなとは考えた。何しろ異論が一点、濃く付されたのだから。
「彼は、一人の力ではどうにもならないということを思い知って、逃げ出そうとして、それでも諦められず結論を出して、小さなサインを出しながら必死になってやってきて、この僕を倒しに来た」
 そう、この少女は聡く、貪欲に勝利を求めている。
 だが思慮深さはないらしい。
 相手はまずぽかんと小さく口を開けた。
「そのサインを受け取ったのは、素晴らしいメンバーだと思う」
 そもそも無遠慮さこそ持ち味の年頃にそんなのを求められるはずもないし、彼女の意見は一方で尤もだと言えるかもしれない。何しろ黒子の異能はあそこまで練り上げられたからこそで、凡才が手にするには単に手に余るカードだ。彼は容易く操縦できない。
「そんなチームを指導する彼女も尊敬に値する」
 赤司は携帯電話を黙らせ、立ち上がる。
「だが、彼女一人では成り立つべくもない」
「……」
「誠凛のうちの誰かを軽んじるようなら指導者として認めるわけにはいかない、彼らのびしろを無視し、腑抜けたチームにしようものならそれは排除されるべきだ」
 そう思わないか、と問うように眼差しを向けるとびくりと肩を竦ませる。
「横からしゃしゃり出て、邪魔をしないでくれないか」
 赤司は努めて静かに口にする。
———考えてみてください。
 彼女は、敗退が決定した誠凛に何かを投下しに来た。
 何をしに現れたのかは問題にはならない、そんなことはどうでもいい。
「っ…」
 それがなんの目的でどんな事かは赤司には詮索する気もないが、それでも黙っていられなかった。目の前の景色は変わらないというのに現実感に乏しく、いまと地続きと思うと軽い目眩さえ覚えた。それは黒子のプレイヤーとしての評価の低さではなく、挟み込まれる私見だ。不要で、切り取られるべきものだ。気に入らないとその一言に尽きる。あの領域《視線誘導》に触れていい者は限られているのだ。
 かちりと背後で音がして、ドアが開く。色を失った少女は凍り付いたように動かない。
「あ、赤司君」
 スコアボードに並ぶ単一な数列を思い出す。彼はそのときから明るさを失った。
「何してるんですか、実渕さんやチームの皆さんが探してます。早く戻って下さい」
 赤司の求める言葉一つも出さず、急かすように告げる。無感情に粛々と任務を遂行というようだった。新しい光と出会い、明るさを取り戻した黒子は光度を増したというよりも屈折されようがどうしようが消えない、しなやかなしたたかさを身につけていた。
「え、赤司、こんなとこ居たのかよ?」
 黒子の後ろからぶつかるようにして火神が顔を出してくる。明らかにむくれているが、うっかり食糧が足りないとかそんな取るに足らない理由の程度に見えた。
「追い払うのか?」
「違います」
 即座に答え、見ろとばかり携帯電話の画面を指し示す。
「時間に余裕はまだある」
「桃井さんからの一斉メールですよ。用件は分かりませんが、緊急だったらどうするんです」ボクも探すところでした。
 淡々と言いながらも黒子はずかずかと赤司の目の前に歩み寄り、言いたいことはあるんでしょうが今日のことはまた後です、ときっぱりと言い放つ。目の縁に赤みが残っていた。
「…譲られてやろう」
「エッラそうに」
 火神が唾棄するように言うのをすかさず脇腹に肘鉄を入れながら
「ありがとうございます」ではまた。
 黒子は礼を言う。そしておやという風に視線をその先に向けた。歩いて行く赤司の背後で黒子が少女にどうしたのかと親切に問う声が聞こえる。廊下にはどこかでボールを突く音が反響していた。なんでもないです、と上擦った声で答え、逃げるように走り去る足音を聞きながら赤司は実渕に向け発信のボタンを押す。
 
 
 
 

なおと 150515

 
 
 
 
 

**************************

 
 
 
 

赤司さんが、誰の目もないところで密かに敵をツブしてたらなって思いました。
誰彼にも大らかだけど、これは無益どころか、と判定されたら即座に排除の対象に。
そこいらは情け容赦ないかと。
相手によっては何かしら狭量なところがあると思うのです。
黒子っちは特に。離れているからこそ。