もろびとこぞりて

 恐らくテッパンの、某日ネタです(笑)
 そして、ありがち?なネタですが。題名通り、皆集まってわちゃわちゃしてるのが書けたので、少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。
 二人は皆でわいわいするのも好きだと良いな。そして、お誕生日はきっと別に祝ってもらえるんだ。二人でもちっちゃく(?)お祝いしてたら尚良しです。
 

【PDF版】もろびとこぞりて

 
 
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 奥村兄弟にとって、クリスマス、と言うのは待ち遠しくもあり、大変な日でもあった。
 町中が色とりどりの飾りで溢れ、クリスマスソングが流れて賑やかになると同時に、彼らの暮らしていた修道院と、併設する教会では『キリスト降誕の日』、つまりクリスマスに向けて特別な期間に突入する。
 特に二十四日の晩からは、夜半のミサ、明けて二十五日の早朝のミサ、日中のミサと三回も礼拝が教会で行われるのに加えて、子供向けの集会が催されて、教会と修道院の両方でその準備に追われて忙しかった。兄弟に『十二月二十五日とはどんな日か?』と問うたなら『眠くて寒くて忙しい日』と答えるだろう。
 これが不思議なもので、二十五日の夕方頃になってくると彼らの意見はがらりと変わる。何故なら、修道院では兄弟のための『クリスマス会』と『誕生日会』が行われたからだ。
 少し大きくなってからは、クリスマスと誕生日が一緒にされて、少し損したような気持ちを覚えたこともあるが、それでも養父と修道士たちに囲まれて、にぎやかにご馳走とケーキを頬張って、プレゼントを貰える、特別な日だった。
 
 
 二学期もあと一週間。終業式の前に控えている期末テストを乗り越えれば、冬休みである。事情のある生徒たちを除いて、正十字学園の生徒たちは三々五々、年末年始を家族の元で過ごすために家路に就く。目の前の苦しみとその後の楽しみで学校中が少し浮き立ったような冬の日のことだ。
「なぁなぁ、出雲ちゃん。クリスマス、ヒマ?」
「アンタに関係ないでしょ?」
 祓魔塾に入ってきた志摩廉造が、席に着いて何か書き物をしていた神木出雲に話しかけるが、いつもの通りつれない返事だ。だが廉造も慣れたもので、そんな程度では怯まない。
「そないにいけず言わんと、クリスマスパーティせぇへん?」
「はぁ?」
 廉造の後から入ってきた三輪子猫丸と勝呂竜士が、出雲とのやりとりに呆れた顔をする。
「クリスマスパーティ?」
 同じく席に着いていた杜山しえみがきょとんと尋ねてくる。
「志摩が昨日からうるさいんや」
「坊《ぼん》かて楽しみでしょ」
 判ってるぞ、と言いたげな廉造に、やかまし、と勝呂が不機嫌な顔をする。
「図星や」
 廉造がクククッと笑う。
「バッカじゃないの?だいたいアンタ達お坊さんじゃない。クリスマスとか言ってていいワケ?」
「あ、えーのえーの」
 調子よく答える廉造に、出雲が呆れたような目で見る。
「まぁ、ウチの寺もなんだかんだ言って子供が結構居てはりましたから、ちょっとした会をひらいてくれはってたんです。まぁ、クリスマス、とは言いませんでしたけどな」
 子猫丸が苦笑する。
「それでクリスマスパーティってワケ?浮かれる前に期末の心配したら?」
「その後のお楽しみを励みに頑張るんや」
「そないなもんなくても頑張るのが期末やで」
 勝呂の意見に、出雲が全くその通りだと頷く。
「まぁ、要はなんか騒ぎたいんですわ、志摩さんは」
 子猫丸の言葉に、一瞬何事か考え込んだしえみが「私も参加したい!」と挙手した。

「で、クリスマスパーティを?」
 講義が終わった後、教壇で荷物を纏めていた雪男がしえみの話を聞いて微笑む。
「そう。祓魔塾の皆と、あと朴さんも呼ぶの。雪ちゃんも出られるよね?私お友達とクリスマスパーティするなんて初めてだから、楽しみ」
 相当興奮しているのか、しえみは頬を染めて饒舌に喋った。
「で、どこでやるんだ?」
 さっさとノート、テキスト、筆記用具を仕舞った燐が、眠そうに欠伸をしながら机に頬杖をつく。頭は半分夕飯の献立に向いている。
「ここでどないです?まぁ、お借り出来ればですけど…」
 子猫丸が提案する。
「掃除と片付けだけきちんとして貰えれば、問題ないと思いますよ」
 雪男の言葉に喜んだ廉造としえみが、早速あれやこれやと話し出す。当然のように巻き込まれた出雲や宝もまんざらでない顔をしているから、言葉上はどうであれ、楽しみなのだろう。料理が欲しいと言う意見を聞きつけて、燐が腕を撫し始める。
「クリスマスケーキはどないしはります?」
 買って来るか、それとも作るか、スポンジケーキが良いか、中身はナニが良いか。色々な案が出されるそんな中、出雲がぽつりと呟いた。
「ブッシュ・ド・ノエルがいい」
「ブッシュ・ド・ノエル?」
 きょとんとしたような、一気に興味を持ったような燐が鸚鵡返しする。
「た…薪って言うか、丸太みたいに飾り付けたケーキよ」
 ロールケーキにクリームで薪のような飾り付けをしたケーキだ。ケーキの周りに砂糖菓子で作ったきのこや小人が飾ってあるのが、特に出雲のお気に入りだった。
「面白そうだな、ソレ」
 出雲の説明に、燐の目が授業では滅多に見られないくらいに輝いた。図らずもやる気満々だ。雪男がそんな兄の様子を見て小さく苦笑する。
「じゃぁ、奥村君は料理とケーキやな」
「あ。僕、奥村君手伝います」
「ホントか、ありがとな、子猫丸」
 早速子猫丸と燐が献立を考え始める。
「ほなら、飲みモンとかは買出しやな」
 しょうがない、と言う顔をしながらも段取りを考える勝呂もどことなく嬉しそうだった。
「ツリーがあったら完璧なんやけどなぁ。ほんで、ヤドリギを戸口に飾るんや」
 廉造が物凄く嬉しそうな顔で言う。
「ツリーは何とか手配できるかも知れませんが…」
「なんや?ヤドリギて」
 雪男と勝呂の疑問に、廉造が含み笑いをする。
「ヤドリギの下で出会った人にはキスしてエエんです」
 教室が一瞬静まり返る。
「冗談じゃないわ!絶対反対」
『欧米じゃただの挨拶だろーが。キスくらいで、ガタガタ騒いでんじゃねーよ』
 顔を真っ赤にして叫ぶ出雲に、宝の腹話術にあわせて人形がぱくぱくする。人形は何となく可愛いのに、喋る内容は全く可愛くない。
「うるさいわねっ!」
『ま、こっちもお前みてーなガキお断りだけどな』
「こっちだって、あんたみたいなのお断りよっ!」
 成立しているのかどうか判らない言い合いをする出雲と宝を余所に、「イイコト言った!」と言わんばかりの顔をする廉造を見て、残りの面々が呆れたような溜め息を吐いた。
 
 
「…来はりませんね…」
「子猫、買出しとか調理手伝ったんやろ」
「昨日買出しに行って、下準備までですけど。後は大丈夫やて言わはったんで」
 さっきから何度も聞かれた質問に、これまた子猫丸が心配した顔で俯く。会はクリスマスの午後から開催することになっている。
「こっちも飾りつけは、昨日やってしもうたしな…」
 喜ばしいことに、今年は二十二日に二学期が終了した。翌二十三日に雪男から呼び出しがあって、ツリーと教室の簡単な飾りつけなどは済ませてあった。ヤドリギは廉造以外の全員が反対したのもあるが、正十字学園町にある花屋や、飾りつけを扱っている店のどこを回っても手に入らなかったため、あえなく断念となった。
 勝呂達は今朝からジュースやスナック菓子、プレゼントの買出しに出かけて、昼過ぎには塾の教室に入っていた。
 それ以降他の塾生が幾ら待っても表れないのだ。時刻は既に三時半を回っている。確かに「午後から」と時間を決めずに言ったが幾らなんでも遅すぎるのではないか。しかも、ここまで連絡が一切ない。燐だけであれば連絡を忘れている可能性もある。だがしっかり者の弟、雪男がいて連絡がないのも不思議だ。急な祓魔任務でも入ったのだろうか。朴や出雲が現れないのも不思議だが、廉造と同じくらい楽しみにしていたしえみが姿を現さないのは、もっと奇妙だった。
「待ちや」
 勝呂が携帯を出して電話を掛け始める。しんとした教室に小さくコール音が聞こえる。
「…アカン。若センセも奥村も留守番電話や」
 勝呂の言葉に全員が意気消沈する。クリスマスツリーも飾りつけも、なんだか寒々しく思えた。
 と、がちゃりと音がして喧騒が飛び込んできた。三人とも一斉に扉の方を向く。
「おー、お前らここで何してんだ?」
「奥村…?」
 大荷物を抱えた燐と雪男の姿があった。燐は肩にダンボールを二つ担いで、反対の腕でもう一つダンボールを抱えている。雪男もダンボールを二つ抱えていた。二人とも私服だ。扉の向こうはどうやら別の施設と直接繋がっているようだった。ざわざわした人の話し声や動き回る音が扉の向こう側で反響して響いて来る。扉の向こうを通った小学生くらいの男の子が興味深げに覗き込むと、はにかんだように笑って走り去った。
 雪男が扉を閉じると、しんと教室が静まり返った。
「皆さん、今日はどうされたんです?」
「どうって…」
 勝呂が事情が掴めずに、ぼそりと呟いてそのまま言葉が途切れた。
「あ、丁度良いや。お前ら暇だったらちょっと手伝ってくれよ!」
 燐がどさどさとダンボールを降ろし、その内の一つをごそごそと引っ掻き回して、色とりどりの布を引っ張り出す。
「若センセ…?」
「今日って…ここでクリスマスパーティやるんと違うんですか?」
 廉造と子猫丸が雪男の真っ当な返答を期待して呼びかける。
「え?」
 燐と雪男がきょとんとした顔をした。
「クリスマスは明日だろ?今日は二十四日じゃねーか」
 燐の当たり前だろ、と言わんばかりの顔を見て、三人が気の抜けたような顔をした。
「なんだよ、お前ら、待ちきれなかったのか?」
 笑い出した燐に、勝呂がやかましわ!と怒鳴る。
「はっきり日にちで確認しなくて申し訳ありません。もう二十五日のことだろうと決めて掛かってしまっていたので…」
 事情を把握した雪男が、済まなそうに言う。昨今では二十四日に祝う向きが多いが、確かにクリスマスは十二月二十五日のことである。
「で、お前らこれから時間あるか?」
 燐が話題を変える。
「ああ、そういえば、さっきも同じこと言うてはったね」
 子猫丸が一応夜まで外出許可を取ってある、と答えると、燐が手にした布をばさばさと投げて寄越した。
「ちょ、待てや、奥村。なんやこれ」
「いしょーだよ、いしょー」
「いしょー?」
「実はこれから劇をやらなければならないんですが、なにしろ人手が足りなくて。良ければ手伝って頂けませんか?」
「劇ぃ…?」
「クリスマスですから、イエス・キリストの誕生劇をやるんです」
 奥村兄弟が育った修道院に併設されている教会で、子供たちのためのクリスマスの集いがあるのだと言う。
「台詞これから覚えるんでっか?無理ですよ…」
「大丈夫ですよ。台詞はそんなに長くありませんし、僕が傍で誰が何を言うかも全部読みますので」
「俺らも急に呼び出されたんだよ。修道士の皆もバタバタしてるしよ。シュラにも連絡つかねーし…」
 燐がごそごそと他のダンボールも開けながら、偉そうに「使えねーよな」などと呟く。
「今日は夜半から明日の昼までミサが三回もあるので、修道院も教会もてんてこ舞いなんです。おまけにいつも劇を手伝ってくださる信者さんたちが、今年はいらっしゃらなくて…。大人用の衣装なので少し大きいかもしれませんが」
 呆然としている勝呂達を余所に、奥村兄弟は次々とダンボールから衣装と小道具を取り出して行く。
「教会も手狭なもので、ちょっとここを楽屋代わりに使わせて頂こうかと思って来たんですが、本当に奇遇ですね。正直僕らで早変わりをしなければならないところでした」
 雪男がちらりと時計を見て、手早く黄ばんで使い込まれた台本を皆に配った。
「時間がないので、急いで通しをやってしまいましょう」
「あの…。若センセ、誰が何の役をやるんですか?」
 廉造が衣装と台本を持ったまま呆然としている。その脇で勝呂と子猫丸は衣装をためすがめつしている。
「そうでしたね、ふむ」
 廉造の言葉に雪男が一瞬考えて、台本を捲る。
「聖母マリア、夫のヨセフ、キリスト。そないなもんと違うんですか」
 衣装の多さに戸惑った勝呂の意見に、雪男が微笑む。
「もう少し人数がいるんです。イエス・キリストが生まれた時に訪ねて来たという羊飼い役と、同じくイエスを訪ねた東方三博士。そして、マリアに処女懐胎を告げたという天使ガブリエルですね。後はもう一人天使が居るのですが、これは人数に余裕があれば割り振るようにしようと思います」
 雪男は台本を見ながら、人数を数えるように指を振りたてた。
「兄さんはイエスね」
「オレ赤ん坊かよ?」
「主役じゃないか」
 雪男が小道具から赤ちゃん人形を取り出して、燐に放り投げる。
「おぎゃー、おぎゃーって言ってるだけじゃねーか」
 片手で受け止めた燐が不満そうに口を尖らせる。
「兄さんにまともに劇が出来た記憶がないんだけど」
 雪男がメガネを押し上げる。
「うっせーな、オレだって…」
「じゃぁ、台本読んでごらんよ」
「やってやるよ!良く聞いてろ」
 一つしわぶきをしてのどの調子を整えると、燐が適当に開いたページを読み始める。
「マリア…。えーと…マリア…」
 案の定直ぐに詰まった。ひたすらマリア、と繰り返す燐の台本を、皆がどれどれと覗き込んで「なんじ」と声を合わせてツッコミが入った。
「はい決まり。兄さんはイエスの声ね。僕はヨセフ。出ずっぱりだけどほとんど台詞がないから、台詞の指示しやすいしね」
 勝呂がぱらぱらと台本を捲る。
「センセ、オレも脇で台詞言うん手伝いますわ。これ位なら二回も読めば、大体いけるやろ思いますし」
「さすが勝呂君、頼もしいですね。じゃぁ、マリア役をお願いします」
 勝呂が何を言われたのか判らなかったと言わんばかりに目をぱちくりとさせる。
「マリアは比較的台詞が多いですし、ヨセフと喋ってるところもあるので、指示するのが難しいんです。すぐに台詞が覚えられる勝呂君なら、大助かりです」
 言葉を失っている勝呂に、雪男がにっこりと微笑みながら、黒板に配役を書き出していく。羊飼いと東方三博士の役に子猫丸。ワケは衣装と一緒につける張りぼての二人の表が羊飼いで、裏返しにつけると博士になるからだ。
 ガブリエル役は廉造。処女懐胎を告げるところに台詞があるが、その後はそのまま普通の天使役になる。イエスが誕生した所でもう一つ天使の台詞があるが、他は舞台上に出たところで、台本に書かれたとおり「ハレルヤ、ハレルヤ」と言うだけで、比較的楽な役だ。ついでに燐にも天使役が振られる。廉造と一緒に出て脇で「ハレルヤ」を繰り返すのだ。
「坊《ぼん》なら、台詞入るんも早いですし。適役ですわ」
「子猫さん、フォローになってへんで」
 腹を抱えて大笑いしている志摩を睨みつける勝呂の肩を、燐がぽんと叩いた。
「ドンマイ、姫」
「それ、やめぃや!」
 
 
「こんなゴツイマリアがおるかい。センセがやらはったらええんや」
 勝呂は最後までぶつぶつ文句を言い、舞台上ではベールを深くかぶってけして顔を見せようとはしなかった。低い声のマリアが喋り始めた時は流石に見ている人々がざわついた。しかしそれが却って勝呂に腹を括らせたのか、倍するほどの朗々とした声で台詞も完璧に演じきって、途中からは観客もすっかりマリアに聞き惚れていたようだった。
 イエスが生れ落ちて直ぐに「おぎゃー」と言うべきところで、燐が「ハレルヤ」と言って観客の失笑を買ったり、子猫丸が衣装の早換えで張りぼての順番を間違えそうになったりしたのもご愛嬌で、劇の上演は大好評で終わった。
 一夜開けて、祓魔塾の教室でクリスマスパーティが始まる。
 雪男の鍵で寮の厨房と教室をつなげて、燐と子猫丸が料理を運びこんでくる。
「鶏の丸焼きじゃねーけど、鶏肉のワイン煮込みと唐揚げな。他も自分で取りやすいやつにした」
 酢飯と刺身をラップで包んだ、一口サイズの毬寿司。白菜とベーコンを何層にも巻いたクリーム煮、アスパラガスを軽く茹でて塩ダレで和えたもの、小あじのマリネ、かぶとレモンのサラダなどなど、和洋取り混ぜて次々と並べられる料理に、昼ごはんを抜いた祓魔塾の面々が唾を飲み込んだ。クロもご招待に預かって、料理が並べられたテーブルの上で大喜びで飛び跳ねている。
 そしてブッシュ・ド・ノエルが最後にテーブルに乗せられた時には、さすがに感嘆が漏れた。チョコレートクリームで木の皮のように飾り付けられたケーキには粉砂糖が掛かって、まるで雪が降ったみたいだ。砂糖菓子のきのこと小人がその周りを取り囲み、チョコレートのヒイラギの葉と「メリークリスマス」と書かれた飾りが乗せられていた。
「奥村君、ケーキの写メ撮ってもいい?」
「おー」
 あちこちの角度から携帯で写真を撮る朴と一緒に、出雲も存分に写真を撮ったようだ。しえみも朴に写真を現像してもらう約束をしていた。
「気に入ったか?」
「凄く可愛いよ!」
 朴の褒め言葉に燐が嬉しそうに笑った。
「奇跡だ…」
「どないしはったんです?」
 ケーキを見て雪男が衝撃を受けたように呟いたのを、勝呂が聞きつける。
「クリスマスのつづりが合ってる…」
 チョコレートで作った楕円形のプレートに、ホワイトチョコレートで文字が書き付けてある。
「その代わり、「メリー」は「マリー」になってますけどな」
「余計に奇跡ですね」
 雪男と勝呂が顔を見合わせて噴き出した。
「奥村君、鶏ウマイで」
 廉造の言葉に、皆が口いっぱいに料理を頬張りながら頷く。
「そうか?」
 燐と子猫丸が嬉しそうに顔を見合わせて、やったな、と拳を軽くぶつける。こうして大勢で摘まむようなパーティ料理は燐にとって初挑戦だった。誰かが切り分けるより、皆が取りやすそうな料理にした方が良い、と提案したのは子猫丸だったらしい。
「図書館で料理本のコピーとらしてもろうたんよ」
「後は修道院で食わしてもらってたのとか、適当だけどな」
 二人の喜んでもらえるだろうかと言う不安を吹き飛ばすように、彼らの力作はあっと言うまに皆の胃袋に収まった。綺麗に空になった皿を下げる時に、口々にかけられた賞賛の言葉に燐と子猫丸の顔が嬉しそうに緩む。
 会の始まりに登場して、直ぐに冷蔵庫に一旦仕舞われたブッシュ・ド・ノエルが再び登場して、砂糖菓子や飾りのチョコレートと共に切り分けられる。生地がチョコレートで中のクリームはフルーツ入りだった。お供はしえみがブレンドしたオレンジとシナモンがベースのハーブティだ。
「こんなのも良いもんだな」
 雪男の隣で、ケーキをつつきながら燐がぼそりと呟く。
「そうだね。修道院でのクリスマスとはまた違ってて良いね」
「ああ」
 兄弟二人が周りをぼんやりと見る。こうして友達と一から作り上げて祝うクリスマスは、楽しくてそしてなんだか達成感がある。
「良い日だな」
「そうだね」
 彼らにとって、これまでの『クリスマス』の記憶とはまた違った、良い思い出になりそうだった。
「ああ、そうだ」
「どうした、雪男?」
 雪男がポケットを探って封筒を取り出す。
「昨日の写真。長友さんがデータを送ってくれたんだ」
 そう言えば、朝早くからがちゃがちゃとプリンターが動いていた。
「勝呂君、昨日は本当にありがとうございました。これ写真です」
 雪男が差し出した封筒を、脇から志摩が奪い取る。
「ちょ、志摩!」
 止める間もなく、他の面々が見たい、見たい、と群がる。特に劇を手伝ったことを今日聞かされた、朴、出雲、しえみは興味津々だ。
「坊《ぼん》、斬新なマリア過ぎて眩しいですわ」
 観劇していた誰かが望遠で取ったらしく、顔がきちんと見えている勝呂の写真を見て、志摩が噴き出す。
「い…、衣装が皆長いから…おかしくないよ…。ね、出雲ちゃん…」
「……に…、似合うんじゃない…?」
 朴と出雲は必死に堪えていたが、声が震えている。
「うっさい。笑いたければ、笑えや!」
 勝呂が拗ねたように怒鳴ると、堪えきれなくなった朴と出雲が吹き出す。
「私も劇見たかったなぁ」
「杜山さんおったら、マリアやってもろうてたで」
「えええ?私…!?」
 勝呂の言葉に、しえみが真っ赤になって慌てる。
「まぁ、女の子がおったらなぁ…?」
「おれへんかったんですから、仕方あれへんですよ」
「そうですね」
「ま、しょうがねーよ」
 勝呂を慰めるように少年たちは口々に呟く。勝呂も苦い顔をしながら諦めているようだ。
「教会に来てた女の人に頼めば良かったんじゃないの?」
 こいつらに頼むのと変わらないでしょ、と出雲がぼそりと呟いた。
「あ、そう言えばそうですね」
 雪男がそれは気がつかなかった、と呟く。
「スイマセン、台詞のことばかりに気を取られて、勝呂君がやってくれるならいいかと…」
「たしかに、坊《ぼん》は完璧に覚えてはりましたから…」
 子猫丸のフォローも虚しく、今ソレを言うか、と呆然とする勝呂の肩を燐がぽん、と叩いた。
「ドンマイ、マリア」
「やかましわ!どつきまわされたいんか!」
 
 

–end
せんり